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「雪、大分溶けたよ」 「へぇ」 「寂しいね。もう降らないのかな」 均等にパンを千切りながら吉崎はひどく残念そうにしている。 壱也は与えられた欠片を飲み込んで、言った。 「また降るんじゃねーの? 積もるかわかんないけど」 吉崎はトレイの上にあるマグカップを持ち上げた。 一口飲んで熱さを確かめると、壱也にゆっくりと傾ける。 カーテンの合間からは場違いなほどに眩しい日の光が差し込んでいた。 真っ青な空。 雲一つ見えず、まるで切り取られた色紙のような。 あれじゃあ雪もすぐに溶けるはずだ。 「雪、雪ってさ、何かいい思い出でもあんの?」 食事が済んでトレイをデスクに置こうとしていた吉崎は不自然な格好で振り向いた。 「鋭いね。時夫さんに似てる」 監禁初日、吉崎は壱也が父親に似ていないと発言していた。 本人はそのことを忘れたらしい。 「いい思い出、あった。雪が降った夜に僕と彼は初めて結ばれた」 壱也は柄にもなく赤面した。 父親がセックスしているシーンなど今まで想像したこともなかった。 吉崎の不意打ちなる告白に影響されて、つい、想像してしまった。 相手はもちろん目の前にいる吉崎だ。 「こんな話、聞きたくないよね」 壱也の反応に吉崎は失笑し、イスに座ると体の向きを反転させた。 「なんで親父を好きになったの」 吉崎は振り返らずに答える。 「理由なんてわからない」 ただ、わかることは。 彼には大事なものがある。守らなきゃならないものがある。 僕はそれを傷つけてみたかった。 僕から去った彼を最も苦しめる方法だから。 僕の痛みを彼にも知ってほしかった。 吉崎は窓の方を眺めていた。 綺麗な横顔だった。 今でもまだ親父のことを好きなのだろうか。 「俺に睡眠薬とか飲ませてる?」 急な問いかけに吉崎は窓辺から壱也へと視線を移し変える。 「そう思えるほど、君はよく眠るよね。実際、飲ませてはいないけれど」 「あ、そ」

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