「やっぱり体洗おうか」 浴槽の中で死んだように目を閉じていた壱也はだるそうに瞼を持ち上げた。 吉崎が浴槽の縁に腕を乗せて覗き込んでいる。 「もしかしてまた寝てた？」 「ん……寝てねー」 「ちょっと上がってくれる？　洗うから」 吉崎は手の中で石鹸を泡立たせていた。 タイルの上に移動すると、背中を、彼の掌が滑った。 ただ愛撫されているだけのような感覚が壱也には苦しかった。 早く終われ。 呼吸を我慢するように唇を固く閉じる。 吉崎の手は脇腹を過ぎて正面に回っていた。 何の躊躇もなく彼は手を進めている。 それが益々壱也を追い詰める。 「……壱也君」 下肢の異変に気づいた吉崎がやっと手を止めた。 どうしようもない壱也は耳まで赤くして俯く。 誤魔化す余地もない。 言葉よりも先に体が答えてしまっている。 吉崎の手がどうしても呼び起こす。 どんな風に触って、舐めて、犯したか。 そのときの残虐な快楽を。 「……無視しろよ」 「無視って……このままはきついだろう」 吉崎は腕を伸ばして壱也のペニスを掴むと上下に動かし始めた。 義務的にすら思える手つきに壱也は喘いだ。 「はぁ……あ……っ」 「いいよ、もたれて」 濡れた体で後ろの吉崎に寄りかかる。 もどかしい。 壱也は歯を食い縛った。 こいつは親父と通じていないと、犯すどころか、手も出してこない。 今やっと触れてきたのも俺を慰めるためだけのもの。 わかってる、わかってるけど。 ああ、俺はどうしたんだろう。 ペニスから迸った体液が壱也は無性に憎らしかった。 もうすぐ期末だ。 毎日、気楽にやれればそれでいいから、あんまり勉強はしない。 何かに悩むのも面倒くさい。 空っぽの頭で友達と遊んで、ふざけて、カノジョとかつくって……。 空っぽの頭で。 だけどもう俺の頭には何かが詰まっている。 空っぽでいられなくなった。