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4-4
「そのシャツ」
「え」
「大きすぎたね。着心地、悪いだろう」
「……別に」
翌日、吉崎は壱也の前でいつも通りに振舞っていた。
緊張していないのだろうか。
それとも平静なフリをしているのか。
「いつ会うんだよ?」
「仕事が終わる頃。八時くらい。実は、もう連絡したんだ」
「まじか」
「場所も決まってる」
「それ親父が決めた?」
「僕が決めた」
絶え間なく続く喧騒。
電車を降りてホームに出、構内を突き進む。
擦れ違う度に人とぶつかった。
「大丈夫?」
隣を歩く吉崎が腕をとろうとしてくる。
壱也はそれを拒んだ。
「もう手錠はないんだしさ」
吉崎は笑って手を引っ込めた。
混雑した駅を抜けて外へ出た。
たくさんの光で溢れている。
ビルや店の窓明かり、街灯の灯火に車のヘッドライト。
時夫は駅前のこの広場に来るらしい。
茂みの囲い周辺やベンチに腰を下ろしている人々を見回し、吉崎は呟く。
「いないね」
二人は茂みの前に立って言葉少なめに時夫を待った。
殆どが待ち合わせのようだ。
すぐ隣にいた少女が駆け足でやってきた少年に「遅い」と声を張り上げている。
吉崎は少し俯いていた。
前髪が乱れて目元を隠している。
「あのさ」
「うん?」
吉崎はその姿勢のまま壱也に返事をした。
「あんた、親父の髪も洗ってやったこと、なかったんだ?」
吉崎は顔を上げた。
その時、壱也の視界は人ごみに見え隠れする父親を捉えた。
「親父」
壱也は走り出した。
吉崎は追ってこない。
近くまで接近したところでやっと時夫は我が子に気がついた。
「壱也」
数週間ぶりに見る父親の表情は今までと何も変わらない気がした。
眼鏡の奥の双眸に再会の感動など一切見受けられない。
期待などしていなかったし、自分も同様で、壱也は特に不満に思うこともなかった。
「……吉崎は」
「あそこ」
壱也が顎でしゃくる。
時夫はそちらを見た。
吉崎は、もう、見ていた。
時夫の巻いていた暖かそうなマフラーが翻った。
「親父……」
時夫は彼の元へ真っ直ぐに駆けていくと。
目線を逸らさずにいた吉崎を。
「時夫さん」
壊れたように時夫は吉崎を抱きしめた。
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