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壱也は久し振りになぞる暗い家路を一人辿っていた。
静まり返った住宅街。
足音がやけに響く。
あの二人の再会を目撃して切り裂かれた胸の痛みを持て余し、壱也は、オトナ達を心底バカにする。
下らねー。
好きなら一緒にいればいいのに。
どうして嫌いじゃないのに別れたりする?
「くそ」
電柱を蹴ったって何の解決にもならない。
だが壱也は蹴らずにはいられなかった。
さっきから頬を伝うものが一向に乾かない。
壱也のスラックスのポケットには、携帯と、手錠が入っていた。
「おいでよ、壱也君」
部屋を出る一時間前、寝室のデスクに着く吉崎に呼ばれて壱也は彼に近づいた。
その手元には鈍く光る手錠が。
よく見れば陳腐で安っぽい。
「それ、どこで買ったの」
「ネットで。セール期間中でお買い得だったよ」
壱也はその手錠をじっと見下ろした。
「……それ、これからも使う?」
イスに座っていた吉崎が壱也を見上げる。
顔の近さに壱也は慌てて身を引いた。
「あ、いらないんだったら、ほしいって思って」
吉崎は手錠をとると壱也の手に握らせた。
「これは君のためだけに買ったものだから」
ポケットに手を突っ込み、指先に触れた冷たい感触に心臓を締めつけられた。
壱也にとってそれは吉崎へと繋がる思い出の引き鉄。
縛られる必要なんかないのに。
束縛された心はあんたを追いかけるんだ。
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