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運は誰の味方?3
「じゃ、腹も膨れたし俺は帰る」
宇海がいないならここに用はないとばかりに帰り支度をする。
宇海に出会ってから秀司はすっかり目移りしなくなった。
「そ、じゃあね。あ、そうだ」
「どうかしたか?」
光彦が振り返るとニタリと悪そうな笑みを浮かべていた。
仕事中のキャラを忘れて素が出てしまっていることに少し心配になる程に。
「あの社長さん、もうアンタのとこ行かないって」
「何を勝ち誇ったように…大体俺は被害者だったんだよ。煮るなり焼くなり甚振るなり好きにしろ…まあ、その様子だと存分に楽しんでるみたいだけどな」
どうやら至は光彦に美味しく頂かれてしまったらしいことを察する。
(予想していたとはいえ、両方知り合いなだけになんか複雑な気分だな…)
勘定を済ませ、店を出る。
いつもは店を出てすぐにタクシーを拾うところだが、今日は駅まで歩いて電車で帰ることにした。
まだ夜の22時。
夜はこれからだと言わんばかりにネオンが光り、人は騒がしい。
それも今の秀司には疎ましく思える。
それもこれも、心を乱す宇海のせいだ。
夜の喧騒から逃れるようにひとつ違う通りを歩くことにした。
(ひとつ筋が違うだけで、店の光も人も少ないのは不思議なものだな)
「結構ですから、通してください!」
ぼんやりと至極どうでもいいことを考えながら歩いていると、どこからともなく激しく抵抗する声が聞こえた。
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