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鷹崎秀司という男

「今日ははずれだな…」 「何言ってんのよ!このアタシが目の前にいるのによく言えるわね」 「お前は論外、可愛くない。口説く気すら起きない」 光彦はこのバーのオーナー兼名物ママだ。 このオネェ口調もかの有名なオネェ美容家顔負けのバッチリメイクも商売用。 有名ホテルのレストランで修業した後はバーテンダーになり、ひょんなことから老舗のゲイバーの経営を任された。 独断で店を改名、全面改装して老舗バーの体制が新しくなったことで常連が離れて行くかと思いきや、更に人気はうなぎ上りで二丁目の超有名店にまで育て上げたすごい人物である。 その偉業をひけらかすこともせず、「まだまだよ!」と意気込むパワフルさも周りを惹き付けている要因かもしれない。 彼の見た目は強烈だが、美的センスがよく店内も落ち着いたアンティークで統一されており、隠れ家的な雰囲気を漂わせる。 女装に磨きをかけたい者が『おねえさん』と慕い、女性顔負けのメイク術や知識を得ようと大勢集まっているのもよく見かける。 「はぁ、料理と酒に関しては申し分ないんだけどな…」 「あったりまえよぉ!つまみと酒がウリなんだから」 「光彦、テキーラいつもの頼む」 「だから、その名前で呼ばないでって言ってんでしょっ!」 「悪い悪い。あーあ、どこかに可愛い子いないかな」 「アンタねぇ、いい加減にその遊び癖止めなさいよね!うちの店の子が今月何人泣きついてきたと思ってんのよ…次の被害者を出さないうちに帰ったら?」 そう言って逞しい腕を組んで大きなため息をつく。 「今来たばかりの客にそれはないだろう」 「うるさい!あんたなんか、食べ物集りに来た獣同然!」 光彦はこのバーの他にも、女性相手のホストクラブや年齢層が低めのボーイズバーも何軒か経営しており、そこで働いているのは美少年でモデルの卵ばかりだが、実はゲイだという子が多い。 秀司のようなタイプは体育系兄貴たちにはモテないが、可愛い美少年たちにはやたらと受けがいい。 そのせいで、店での勤務を終えこのバーに秀司目当てでやって来た子たちは、格好の餌食となっている。 光彦の言う通り、秀司のことが忘れられず本気で恋をしてしまった子は後を絶えない。 「泣きついてくるって言ったって、誘ってくる男の子たちに最初に言ってるんだぞ? 一回限りだって。俺は楽しい大人の恋愛がしたいんだ。被害者だ犠牲者だって言うのはマナー違反だろ?」 「何言ってんのよ。とんでもなく整った顔、セクシーな大人の雰囲気、なのに正体はただの遊び人ってアンタの方がマナー違反でしょうが!逮捕モンよ!ばーか!」 「それって褒めてんの?てか、お前も素顔が知られたら人のこと言えないっつーの。顔はいいくせにそんな皮かぶって勿体ねぇよ」 「それはここでは言わない約束でしょ? はぁ…アンタもねぇ、逆の立場ってものをちょっとは考えなさいよ。一度本気の恋愛をしてみるといいわ。二度とそんなこと言えなくなるわよ?」 「本気の恋ならいつもしてるさ。でも、俺になびかないような可愛い子を落とすってのも楽しそう」 秀司の返答に、また絶望的な深いため息をつき呆れた表情をする。 彼にとっては毎回が『本気』の遊びで、『俺に惚れたお前が悪い』のスタンスだ。 優し気な瞳の奥に潜むぎらついた雄の獣の欲望に気づいてしまえば、誰だって彼の手の中に堕ちてしまうというのに。 非の打ちどころのない――ルックスはモデル並み、海外の一流大学への留学経験あり、そして言わずもがな一流企業本社勤務――この人生の勝ち組を誰も放っておくわけがない。 だが、会社では仕事のできる完璧なビジネスマン、夜の街では遊び放題のモテ男―― それが鷹崎秀司という男の正体だった。

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