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夜に舞う蝶2

「君って結構モテるでしょ」 「ふふっ、どうして?…鷹崎さん僕みたいな人がタイプなんですか?」 「そうだね…素敵だなとは思ってるよ?実際、すごく可愛いし」 (返答が挑発的…今までなかった返しだな。ますます好みだ) カウンターに両腕を置いてクスッと笑いながら小首を傾げてくる。 笑みを浮かべるその桃皮のような口元も、ひっそりと色香を含んだ目も、まさに秀司の求める美人に必要な要素だった。 「モデルか何かやってるの?」 「こう見えても僕、普通のサラリーマンなんです」 「意外、じゃぁ僕と同じだね」 「秀司ったらすごいのよ!?40代半ばで部長になれるかなれないかなのに、32歳でもう部長なのっ!すごすぎない!?しかも一流企業だし」 「そんなに褒めても何も出てこないぞ。社長も同年代だし、最近ありえない話じゃないみたいだよ。…てか声でかい!」 息子の自慢をする母親のような口ぶりで、出世頭になりつつある秀司のことを話す。 光彦の言う通り秀司の出世は極めて異例で、部長になるはずだった上司を押しのけて部長の椅子に座っている。 初めはその上司派閥から妬まれ疎まれていたが、人当たりの良さとそれを跳ね返す仕事の実績ですぐに秀司に対する批判的意見の者はいなくなっていった。 「ただお偉い方に気に入られてチャンスが舞い込んできただけだよ」 「でも、その偉い人に気に入られるのがすごいですよね」 「昔からずっとカリスマ性というか、人に好かれるものも何かあるみたいなのよねぇ」 「じゃあ、僕は今日…鷹崎さんの魅力に惹かれて隣に座っちゃったのかもですね」 目を細めてクスッと笑った顔はどこか幼くて、無邪気さを感じさせる。 秀司は宇海にもかなりの人を惹きつける力を感じていた。 彼の持って生まれた魅力のせいか、不覚にも好意を抱いているからか、どちらか分かるようで分からない。 「ねぇ、君、明日は早いの?」 「いいえ、明日はお休みなんです。鷹崎さんは良いんですか?こんなに遅くまで…」 「大丈夫、僕も休みだし。こうやって君ともう少し飲んでいたいしね」 「……構いませんよ。僕も」 (よし、この反応……たぶんイケる) 宇海が店に来て一時間が経とうとしていたころ、秀司が行動を開始した。 「ねぇ、よかったら……」 秀司はそっと宇海の左手に右手を添える。 「――この後、どう?」 甘くて優しい囁くような声音が宇海の耳に響いた。

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