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策士獣討チ取ッタリ
「やっと起きたね。おはよう」
「……おは、けほっ、けほっ!」
「声枯れちゃったね。はい、水」
ベッドから体を起こした宇海に水を渡す。
一糸まとわぬ宇海の姿に秀司は昨晩のことを思い出していた。
あれから2、3回は抱いただろう。
ベッドで、バスルームで、またベッドで。
宇海が疲れて眠ってしまったので秀司が体を隅々まで洗って寝かせ、洗濯をロビーの方に頼みと後片付けに追われた。
秀司がベッドに入ったのは外が薄っすらと明るくなってきてからだった。
鬱血の跡が1つとしてないのは、心も体も自分のものではない宇海に対して秀司なりの礼節や遠慮のようなものがあるからだ。
それに、こんなにきれいな肌に傷をつけるようで嫌だったのもある。
「昨日は柄にもなくがっついてしまったみたいだ。ごめんね」
「体もきれいに洗ってもらって、ありがとうございました」
「何か食べる?あ、その前に着替えだよね。ここに置いておくから」
「チェックアウトしなくていいんですか?」
「寝顔が可愛くてつい起こすの悪いなぁと思ってしまって、余裕持って今日の夕方までってことになってるから安心して。それとも、ああいうことした後はすぐに帰る派?」
秀司自身、ことが終わればシャワーを浴びてすぐに帰ることが多かった。
けれど、今回は違う。
宇海が寝てしまったということもあるが、あわよくば。
いや、何としてでもこの縁を切らしたくはなかったのだ。
すなわち、秀司は自分の中になかった2度目を狙っているのだ。
「そういう鷹崎さんは?」
「シャワーを浴びたらすぐ帰るけど、今回は特別かな。なんてね」
「そうやって色んな子落としてるんですか?」
唐突に訊いてきた宇海の言葉に驚く。
「それは光彦から聞いたのかな」
「はい。あいつには気を付けなさいって」
「人聞き悪いなぁ。僕は誰にでも優しく出来る聖人君子じゃないんだから。口は災いの元だしウソでそうやって言うのは簡単だけど、どうせ不利益被るの僕だからね。
遊んだ子同士での喧嘩も光彦に殴られるのもごめんだし。だから誰にでも言わないよ」
まぁ、言い訳にもならないけどね、と自虐的に言いながらローテーブルに置いていたコーヒーを飲んだ。
守りが固いのは十分に分かった。
おそらくこうなることを予期していた光彦があらかじめ色々と吹き込んでおいたのだろう。
(こういう時に敏腕策士様は恐ろしくてつくづく嫌になる)
「ねぇ、連絡先聞いてもいい?」
「どうしてですか?」
すぐ傍でシャツに袖を通す宇海の背中に語りかけると、含み笑いを浮かべ振り向いた。
「分かってて聞くの?意地悪だね」
「2度目はないんじゃなかったですか?鷹崎さん」
「今回は特別だって言わなかったっけ?」
ゆっくりと近づき宇海の顎を捉え、腰を引き付ける。
秀司の親指が柔らかな下唇に弧を描くのを見詰めてからゆっくりと目線を顔に向けた。
まだ自分は捕まってはいないとでもいうような雰囲気を感じた。
「昨日の特別がたまたま僕だっただけかも」
「僕は目も舌も肥えてるんだ、見誤らないよ」
「じゃあ、今度僕に会えたら……ね?」
小悪魔のような笑みを浮かべて秀司の頬にキスを1つ。
その後、しゅるりと秀司の拘束から抜け出て身支度を済ませて出ていこうとした。
「僕も、秀司さんにならまた抱かれたいな。素敵な時間をありがとうございました」
「こちらこそ。僕は本気だよ?」
そう言って秀司は何もなかったかのようにすまして宇海を見送った。
「あーあ。勝ったようで負けた…今回は光彦の勝ちだ…。俺が火を付けられるなんて」
ベッドに仰向けに倒れ込みそう独りごちた。
鷹崎秀司、32歳――秋の出来事だった。
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