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第5話

 近くにあるカフェに入り二人向かい合わせに座る。  奏斗は元教師ということを胸に渉と目を合わせてた。 「石崎さん、もう寒くない? 大丈夫?」 「はい。……ところで名前で呼んでもらっても、いいですか?」  控えめなお願いに疑問を持つけれど、奏斗は深く追求しなかった。誰でも言いにくい事情はあるだろうし、追及してもそれを自分が助けられるとは思っていないから。無責任な追及は相手を傷つけるだけだ。 「渉君、相談ってなにかな?」  目の前のテーブルに二人分のコーヒーとカフェラテが並ぶのを待ってから、奏斗は渉に声をかけた。  冷えた指先を奏斗はカフェラテで温める。冷え性なので熱めのカップはありがたい。渉もまたカップを両手で覆っているから、外で体が冷えたのだろう。待ち合わせは最初からこのカフェにしておけばよかったと、奏斗は反省する。 「奏斗さん、少しめんどくさい話になるんですが……いいですか?」  今まで学校で見せたことのない、沈んだ表情を彼はする。それを見てかなり重い話だと奏斗は理解し、姿勢を正す。 「いいよ」  ただの生徒なら、ここまで込み入った話はほぼしない。公私混同かもしれないけど、渉の話なら何でも聞きたかった。暗い顔をするくらいなら、全部聞いてあげたいと思う。 「実は家の中でいろいろあって……両親が離婚するんですけど、誰にも相談できなくて……」  普段の学校の姿では想像のできない内容に、奏斗はとても驚いた。それほど、学校では暗い話など聞いたことがなかった。ただ黙って彼の話を最後まで聞くことにする。 「今後は一人で暮らしていくことになっているんです。相談できなかったのは、それを両親が許さなかったからで……でも、奏斗さんならだれにも言わないと思ったんです」  家庭内の事情はだれでもあることだろう。けど、だれかに相談することを禁止する両親は、渉の心を無視し傷つけた。  ――許せない。 「俺はたくさんの友人に囲まれながら、それを誰にも相談できなくて……みんなを裏切っているような気がして……恋人にも言えなくて別れてしまいました」 「――そうなんだ。渉君はこれからどうしたいの?」  相談するとき、大抵はすでに心の中で答えが出ていたりすることが多い。だから奏斗はあえてそう聞いた。 「どうしたい……どうでしょうか? よくわからないんです。ただ、俺は話がしたくて……誰かに聞いてほしくて。――先生、俺は必要な存在なんでしょうか?」  自然と出た「先生」という言葉に、奏斗は彼の助けてほしいという言葉が伝わった。先生だから助けてほしい、と。  そして『必要な存在なのか』と悩んでいたことを理解する。

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