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第17話

第三章 一、春は春 待ち合わせはJR奈良駅に午後の3時。 ロータリーに車を入れて待つ時間30分。 草太が遅れたわけじゃない、僕が早くきたかっただけ。 ハンドルに右腕と顎を預けぼんやりと間隔の空きすぎるタクシーを大きなスーツケースを転がしながら待っている色々な姿の人たちを眺める。 随分、いろんな国の人たちが観光にやってくるんだなと、 先月までアジアの一国で仕事をしていた自分を重ねる。 僕はビジネスだったけど、現地の人たちから見れば異国人ってのはやっぱり目立つものなんだな。 階段から降りてきた背の高い男。 ふっと視野が開けた。 草太…… ドキドキする気持ちを唇を噛むことで抑える。 車から降りようか、迎えに行こうか考えている間に草太は反対の方角に歩いて行ってしまう。 慌ててドアを開けるとまだシートベルトを外してないことに気がついた。 何やってるんだろう、どうしてこんなに焦るんだろう。 恋人との始めての旅に浮ついてる。 駅から降りてくる花見客の団体に一瞬草太の姿を見失った。 背の高い恋人の姿を探しながら、 周りの喧騒がだんだん聞こえなくなる。 置いていかれてしまった、今度は僕が。 そんな哀しい気持ちが自然と顔を俯かせる。 なぜ、こんなに不安定なんだろう? 幸せな週末の始まりのはずだったのに…… 僕の心は 春は春。 初めて恋を知った時のように、 幸せで、楽しくて、不安で、哀しくて。 近づく影、手首を握るその掌に高鳴る胸。 僕は心の全てが向かう恋をしている。

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