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第21話

五、 永く繋いで 車も疎らな道の横断歩道を渡り真っ暗な公園に入っていく。 9時過ぎると全く人の気配はしなくなり、動物の吐息だけが聞こえるような静けさ。 振り返ると外まで出てきていたソムリエの彼がこちらに向かって丁寧にお辞儀をする影が月明かりに映る。 車を断り公園を横切ってホテル迄帰るのを選んだ草太は、ワインで気分の良くなった分、脚は前より横に動くようだった。 「 こんな歩き方じゃ夜中になるよ 」 おかしくなって笑いながらそう告げると、 「 じゃあ 」 と振り返り僕の肩を抱いて歩きだす。 誰もいない街灯の下だけが明るい公園を二人で歩く。 「 途中出てきた羆(ヒグマ)と春野菜のサラダ、美味かったな 」 うんと頷いた僕に、 「 熊って美味いんだな、あのワインも合ってたし。その次のタリオリーニ、あれ黒胡椒練りこんだって言ってたけど俺は初めてだった、馳は?」 「 僕はタリオリーニ自体が初めて 」 「 そっか、毎回料理に合わせてワインをチョイスしてくれるから、ワインと料理が競い合ってより味わい深くなる 」 「 え?」 「 受け売りだよ……リストランテ好きの友達からあそこを教わって、1年に2回くらいは来てたから 」 『 恵さん、彼女と?』 聴きたい気持ちは手のひらに握りしめた。 僕の肩を抱いた手が宥めるようにぼくの身体を引き寄せる。 二人立ち止まると僕は不安を、草太は何を消すために? 愛おしいと重なった唇に、 長い時を熟成させたワインの甘味と仄かな樽の香りが、 この気持ちを更に酔わせる。 この想いを永く繋いで……

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