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第23話
七、 桜、桜
古色帯びたダイニング。
深いグリーンのクロスとその上にかかる真っ白のクロスと。
ホテルの威厳と上質さが残っているテーブルで朝の食事は、
「 茶粥?だよなぁ 」
「 そう?草太は普通の白いご飯の方が好きじゃない?」
「 うん、でも奈良だから茶粥にしとく 」
ふふ、笑いながら外の五重塔を眺めると、流れる時間はなんて穏やかなんだろう。
器が暑いですから気をつけて、
という声がけにハイと頷きながら、
もう一つの声に注意を払う。
「 今日、どうする?」
6時に起きて二人で散歩に行った。
「 朝焼け綺麗だったし、二月堂の周りの桜が満開だったね 」
「 次は吉野に観に行くか 」
「 吉野山?」
「 そう 」
「 じゃあ、東大寺を見てからね 」
「 お前大仏好きだな、鎌倉でも行くたびに寄ってるし 」
こんな会話が嬉しくて、チェックアウトの後、どっちが運転するかで又軽く言葉をジャブしあうんだ。
奈良はどこも一斉に咲いた桜で華やいでいる。東大寺を後にしてウキウキした気持ちのまま一路山に向かう。
「 知ってる道?」
迷わず吉野山を裏から上がる草太に声をかけると、
「 あぁ、うる覚えだけど、3年前に来てるから……
誤解すんなよ、ばあちゃん連れて来たんだよ 」
トクンと鳴った心臓が恥ずかしい……
「 そっか、おばあちゃん喜んだよね 」
「 うん、去年亡くなる前にありがとうって言われたよ 」
バックミラー越しに運転席の草太を見やると、草太も僕を見ている。
紅くなる頰に窓を少し開け、花の薫り運ぶ風を充てる。
カーブの多い山道はハンドルを握る手にもドキドキする胸の高鳴り。
今日はその気持ちに素直になろう。
満開の桜の花が後押しをしてくれる、はず。
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