24 / 30

第24話

八、 僕らの刻 「 圧巻だな 」 「 凄いね、これが、吉野の1000本桜、なんだ 」 「 馳は初めて? 」 「 そう、だからびっくりしてる 」 少し汗ばむような陽気、歩く人は皆薄い桃色に包まれた山肌を眺めながら笑っている、春だから。 歩くたびにぶつかり合う指。 絡ませることはできないけど坂道を歩きながら、修行の装束を置いてある店を覗いたり、昼ごはんに蕎麦を食べたいと物色したり。 草太が一眼レフのカメラを抱えるたびに足を止めて、僕はゆっくりとその何かを撮る草太を眺める。 好きだ、好きだ、好きだ。 何かをする草太……見るだけで心がホッとする僕。 桜の樹の下、この刻。 今は二人だけ、この刻を止めたい。 撮影した画像を覗き込み僕を呼ぶ草太。 いつのまにかそこには桜を仰ぎ見る僕の姿が切り取られている。 「 一緒に写りたかった 」 とぼやく僕。草太は周りを見回し、大きなカメラ抱えてる男の人に声かける。 「 すみません、撮ってもらえますか 」 頷いた男の人。 桜の樹の下、 二人で並んだ。 影が二つ重なる。 カメラのレンズに見つめられて、 僕らの刻は止まった。

ともだちにシェアしよう!