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第24話
八、 僕らの刻
「 圧巻だな 」
「 凄いね、これが、吉野の1000本桜、なんだ 」
「 馳は初めて? 」
「 そう、だからびっくりしてる 」
少し汗ばむような陽気、歩く人は皆薄い桃色に包まれた山肌を眺めながら笑っている、春だから。
歩くたびにぶつかり合う指。
絡ませることはできないけど坂道を歩きながら、修行の装束を置いてある店を覗いたり、昼ごはんに蕎麦を食べたいと物色したり。
草太が一眼レフのカメラを抱えるたびに足を止めて、僕はゆっくりとその何かを撮る草太を眺める。
好きだ、好きだ、好きだ。
何かをする草太……見るだけで心がホッとする僕。
桜の樹の下、この刻。
今は二人だけ、この刻を止めたい。
撮影した画像を覗き込み僕を呼ぶ草太。
いつのまにかそこには桜を仰ぎ見る僕の姿が切り取られている。
「 一緒に写りたかった 」
とぼやく僕。草太は周りを見回し、大きなカメラ抱えてる男の人に声かける。
「 すみません、撮ってもらえますか 」
頷いた男の人。
桜の樹の下、
二人で並んだ。
影が二つ重なる。
カメラのレンズに見つめられて、
僕らの刻は止まった。
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