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第26話
十、 満月に狐
ある日の夜、
唐突に草太が夜のドライブに行くと言い出した。
「 こんな時間から?」
と言うと、
「 こんな時間だから月が見えるんだ 」
と強引に僕を連れ出す。
スウェットの上に適当にシャツを引っ掛けた二人の姿は
「 どっかの寮生みたいだな 」
と草太が笑うから僕も学生気分で夜遊びを満喫することにした。
車は首都高から東名高速にのる。
「 どこで見るの?」
「 とっておきの場所だよ 」
と草太はアクセルを踏んだ。
そして車は御殿場から新東名に入る。
「 道がいいから静かだし揺れることもないよな 」
「 うん、眠くなりそう 」
「 こら、起きてろよ 」
笑いながら僕の頭を軽く小突くと、車はそのまま夜の帳を疾走する。
なぜか並走する車もまばらでまるで僕らだけのロードのようだ。
ジャンクションを上手く使って2時間ほど走ったらUターンして東京をめざす。
山間を走り抜ける新東名。
ヘッドランプが頼りの暗い高速道路で二つの真っ黒い山の間の大きな満月が目の前に現れた。
「 ほら、大きいだろ、あの月まん丸で真っ白だ……」
と、呟く草太。
「 俺たちのこの先の未来って、あそこにあるのかな」
それは叶えられないってこと?届かないってこと?
言ってる意味を解さない僕は、
目の前の更に大きく輝く月をただただ眺める。
「 あんな風にポッカリと、静かに、二人だけで浮かぶ空間が、欲しいな 」
「 え?」
「 馳、
一緒に暮らそう、俺と、一緒に」
美しい満月に狐の影がよこぎって、
僕の心の中の影絵の狐が
『 コン 』
と、泣いた。
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月は1日に50分ずれて東の空に昇ってきます。
満月で南中時が夜中になるのは、1ヶ月に一変。
草太はそれを知っていました。
4月は30日がその満月南中時にあたるはず。
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