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第29話
十二、 川沿いの街で (2)
「 もうヘトヘトだ 」
と言いながら草太がどさっとソファに座り込む。
「 出張お疲れ様、飲み過ぎ?食べ過ぎ?なんか薬飲む?」
胸の高鳴りを誤魔化すようにコマーシャルのような愛想のないセリフを吐いた僕。
背広の上着を預かろうと伸ばした手首を掴まれる。
あっという間に抱き込まれた僕のこめかみに唇を落とすと、
「 俺の薬は馳だなぁ 」
なんて。
少しグレーの入ったワイシャツが胸に押し付けられた僕の鼻に草太の男っぽいムスクと少し疲れた体臭を伝えてくる。
僕には似合わないけど、草太が着るとワイシャツ姿に胸が疼く好きな色。
この色彼女も好きだった。忍び込んだ悪心をぎゅっと目を瞑って振り払う。
今ここに居る草太にもっと近づきたくて両腕を草太の首に回す。近づく唇、薄く目を開けたまま交わす口付け。
グッと強く抱きしめられて舌が絡み合う。疲れてる時こんな時こそ側にいたい。目を瞑り深く身体を求める気持ちに身をまかせる。
草太の思うように変わりたい。
熱くなった身体を冷たいシーツに委ねると夜の闇が睦み合う僕らの身体を優しく覆った。
どうか、このまま、二人の夜が明けるまで草太を僕に……ください。
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