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第2話

影絵 II 恋人にしたい人の、 夜を独占したくて。 熱を出したと口実にすれば駆けつけてくれる、看病してくれるかと。 馬鹿な僕は風邪を引こうと冷たい雨の中を歩いてみた。 恋人にしたい人その人は、熱を出したとラインをしたら、ドラッグストアで買ったあれこれを持って残業の筈だった仕事を切り上げやってきてくれた。 僕の看病をしてくれたらその風邪が彼に移り寝込んでしまった。 今度は看病は僕の番、と思ったら僕は急な仕事で出張になってしまった。 一週間後、出張から帰ったら彼の横には知らない女の人がいた。彼女に世話になったと告げられて、それがその後結婚して、つい先日離婚した彼の奥さん。 ふと昔のそんな苦い笑い話のような話を思い出した僕。 「 覚えているかなぁ 」 と草太に話すと。 「 さあ、そんな事あったか?」 と、 惚けているの? 彼女との馴れ初め、忘れるふりをするほどまだ離婚したことがショックなの? 子どもを預かっていない日曜日の午後は、ほんわかした春直前の陽ざしのせいでやけに眠たい。 10階の部屋のベランダにあるデッキチェアに二人で厚いコートをしっかりと着て腰を掛け、のんびりと遠くの海を眺めているこの時間が僕にはとっても大切な時間。 手には熱々のコーヒーにアイリッシュウイスキーをほんのちょっと垂らしてある。 今日は息子の送りがないからと昼過ぎからアルコールを取る事を許してくれる。 ほんのちょっぴり彼の中で僕の時間の割合が増えているのが嬉しい。 普段は息子の雄介が70%、仕事が20%。 僕のことは?10いかないかな、そんかなこと考えると落ち込むから今はほんの少し増えた割合を喜ぼう…… 「 これ 」 と僕に手渡しした本。 表紙を眺めて、また気分は下降する。 「 影絵の本?」 「 そう、雄介がやけに気に入ってさ。何か他のものもやってやりたくって。 馳も覚えろよ。 二人で影絵の劇をやろう 」 「 何それ 」 笑いながら心は沈む、それでも草太との時間が増えるならと僕は頷いた。 次のコーヒーに入れるアイリッシュウイスキーのは量は僕だけ倍にしよう…… 泣けないなら酔って笑うしかないから。

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