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第8話
影絵 月の縁側 8
殆どの親戚が夜中までには帰っていった。
お祖父さんの家は台所や居間、伯父夫婦が使う寝室は改装されていたけど、玄関や檜のお風呂、そしてお祖父さんの書斎のある離れは補修をかけて綺麗にしてあるだけだった。
「 昔のまんまだね 」
離れの書斎は墨と紙と、畳の懐かしい香りがする。
板張りの部屋と小上がりを上がる座敷の間には障子の引戸が引いてあった。
「 ここだよね 」
「 あぁ、そうだな……離れの書斎でよくお祖父さんが影絵をしてくれたって伯父さんに教えたら、泊まっていけって話になった 。
伯父さんの所は海外転勤族で従兄弟たちもあまりこの家に来たことがなかったって、思い出があるならこの家と一緒に大切にしてくれってね 」
張り替えたばかりか、真っ白な障子が僕らによく来たと言っているような気がした。あの時のキャッキャッと喜ぶ子どもの声が先日の雄介の声と重なって草太は本当はあの子を泊めたかったんじゃないかと心の隅をそんな弱気な気持ちがよぎる。
ガラリと音がしたのでその方を見やると、草太は反対側の庭向きの板戸に手をかけて大きく戸を開け放っている。まだ春には少し間があるのを伝える夜半の冷たい潮風も今夜はなりを潜めている。
「 ふー、ここからの眺めってこんな感じ?確か海が見えたよな 」
と言いながら草太が座敷の前の庭に面した縁側にどかりと胡座をかいたので、僕もそれに倣って冷たい板の間に腰を下ろした。
「 お経長かった 」
「 ほんとほんと 。今は椅子の席用意するのにあそこのお寺は座布団だったね 」
「 長い脚が痺れたよ 」
「 ふふ、自分で言うの?」
ふっと隣に座っている僕の腕を引くと、
「 ほら、俺の胡座の間に座れるじゃん
長いだろ?」
と言いながら僕の頰に口付けを落とす君を、
好きにならずにはいられない。
知ってるくせに……
春の月が君の影を落とす離れの縁側で始まる二人の宴。
この温もりだけが僕の宝。
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