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第10話

圭を引っ叩いてから30分後、恭一郎は寝室を覗いてみた。 圭はベッドの下に食べ終えた弁当の空容器を置いて、また巣の中に潜ってしまっている。 恭一郎は手早くゴミを片付けると、巣の中にいる圭が見付かるまで衣服をベッドの下へ落としていく。 「んだよ、邪魔すんな……折角眠くなってきたのに」 圭は怒っているのかいないのか、また眠るつもり満々だったらしく、不機嫌そうに唇を尖らせた。 「シャワーくらい浴びたらどうだ?」 「ああ……そういや、今日は結構汗かいたしな……けど、浴びられんのか、俺?足腰がフラついてて……」 ベッドの上に起き上がった圭が床の上に降りようとするが、自分の体重を足で支えられないようで、すぐさま恭一郎に重心を預けてきた。 「あれ……マジでなんでだ……?」 「俺が訊きたいくらいだ。とにかく一緒に浴びるぞ」 「そっか……なぁ、恭一郎……?」 「何だ?」 「シャワー浴びながらセックスって、よくね?」 何がいいものかと盛大な溜息を吐く恭一郎だが、自分にだけ向けられる番のフェロモンには勝てそうにない。 実際、もうジーンズの内側は硬く張り出してきている。 「とにかく、バスルームへ行くぞ」 圭の右腕を肩に回し、寄り添うようにして浴室へと連れて行く。 本当に身体に力が入らない圭は、こんな自分がどうしてセックスを持ちかけたのだろうと、自分のことながら疑問に思っていた。 脱衣所に入る。 恭一郎が先に服を脱いで洗濯機へ放り込み、今度は床に座り込んだ圭の衣服を剥ぎ取っていく。 まずチノパンが、次にボクサーパンツ、そして靴下。 上半身に纏っているのは濃紺のTシャツだけなので、すぐに脱がせてもらえた。 ついでに言えば、恭一郎の熱が半分くらい勃起している様も見えていて、性欲が煽られる。 αに欲しいと思われている、欲しがってもらっている、それらの感情が圭に自力で立つ力を与えてくれた。 「圭、浴室に入るぞ」 腕を引っ張り上げようとする恭一郎の手をはねのけ、圭は自分だけの力で立ち上がった。 「なぁ、こんなん惨めでしょうがねーんだけど……どう思う?」 「何のことだ?」 「だからさ……セックスできるって分かると、ちゃんと立てるんだよ……自分の足で。できねーって思ってる時は、まともに力が入らねーんだ」 恭一郎は黙って圭の言い分を聞き、聞き終えてからも何も言わなかった。 理解しているからだ。 いくら番を得たところで、Ωは性欲に左右される生き方しかできないのだということを。 どれほど望んだところで、セックスレスの生活などできないのだということを。 「湯加減を調節しているから、落ち着いたら入って来い」 圭が浴室に入ったのは、恭一郎がちょうどシャンプーをしようという時だった。 いつもは結っている髪を解いて、白い素肌を隠すことなくフェロモンを向けてくる。 恭一郎はそんな彼の腕を引き寄せ、湯を頭からかけてやった。 そうして頭髪が十分に濡れたことを確認すると、しゃがんでシャンプーを手に取り、彼の頭に塗り付けて泡立てる。 わしゃわしゃと洗ってやっている間、圭は無言のまま恭一郎の胸の辺りに額を押し付け、体重を預けていた。 「もう流していいぜ……」 「ああ、分かった」 恭一郎は自分の髪にも仕上げのシャンプーをすると、お湯を圭と自分の頭にかけて泡を流し始める。 そうしていると不意に下半身に触れられ、ビクッ──、と反応してしまった。 「恭一郎、やっぱり俺が欲しいんだ……」 「……欲しくないとは、一言も言っていない」 「俺も……お前が欲しくてたまんねー。身体洗うのとか後でいいからさ、さっさとヤろうぜ」 この言葉には逆らえない。 たとえこの家が火事に見舞われても、圭はセックスを諦めないだろう。 それがΩの本性であり、恭一郎は圭のそんな部分も含めて愛しているのだから、逆らえるはずがないのだ。 恭一郎はとりあえず湯を止めると、圭の顎に手をかけて少しだけ顔を上向きにさせた。 身長は恭一郎が180センチ、圭が175センチ、キスをするには少しだけ傾斜が必要だ。 浴室内にバニラエッセンスのような匂いが充満し、恭一郎を駆り立てる。 噛み付くようにキスをして、圭の口の中へ舌を挿し入れ、口蓋を、歯列をくまなく舐めて、最後に舌を絡ませた。

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