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第13話
聖の失恋話を圭が耳にしてから、1週間後──。
抱いてもらえている間は、自分が恭一郎のものなのだと実感できる。
身体を密着させて眠っている間も、そんな気分になれる。
恭一郎の衣服に埋もれて眠っている間、やはり自分は彼のもので、彼は自分のものだと思える。
だが──、と圭は重い瞼を半分くらい開いた。
「姉ちゃんと恭一郎、お似合いだ……」
一度は割り切ったはずだった。
恭一郎は葛城圭を選んだのであって、葛城聖を恋愛対象として見ることはできなかったのだと。
だから自分が彼のそばにいるのは当然のことであって、負い目を感じる必要などどこにもないのだと。
しかし、圭は「自然」というものを理解してしまった。
いくら恭一郎と番になったところで、圭が女になることはない。
そもそも恭一郎は名家の生まれで、男同士で結ばれることを彼の身内が容認するとも思えない。
そう考えれば考えるほど、自分より聖の方が彼に相応しいのではないかという考えに捉われ、起きている間ずっとそのことばかりを思ってしまう。
だから圭は眠りの世界へ逃避する。
恭一郎の衣服に包まれながら、無の世界へ身を投じることが、自分の心を守る最善の策だと信じていた。
「進捗は3割といったところか」
恭一郎はリビングで圭の卒論を手にし、パラパラとめくって溜息を吐いた。
圭が卒論に着手したのは5月くらいのことで、まだ2ヵ月しか経過していないのだから、まあ順調と言えるだろう。
だがそれは圭が毎日ちゃんと起きて、決まった時間を卒論に充てていれば、の話だ。
今の圭は巣に埋もれて眠ってばかりで、ここ数日卒論は全く進んでいない。
恭一郎は自分の論文の校正をしながら、圭が本当に書けない時のためのバックアップ論文を用意することにした。
それにしても、圭はどうして眠ってばかりなのだろう。
夜になると目覚めて、一緒に食事をしたり抱き合ったりするものの、昼間はほとんど眠って暮らすようになっている。
こんな時、Ω専門医に相談できればと思うのだが、生憎今の恭一郎は聖と顔を合わせたくない。
ならば眠っている圭を叩き起こして、事情を訊くしかないのかもしれない。
そこまで考えたところで、物音が聞こえた。
圭は時折目覚めてトイレを済ませることがあり、話をするなら今しかないと思った。
恭一郎は寝室に入り、自分の衣服が積まれたベッドの端に腰掛けて圭が戻って来るのを待つ。
「あれ……何してんの……恭一郎……?」
起きてはいるが、頭がぼんやりしているのだろう、呂律が回っていない。
「お前、何か悩んでいるのか?なぜ寝てばかりいるんだ?」
「あー……そのことか……うーん……もう言ってもいいかな……」
圭はゴソゴソと衣服を避けながら自分の寝る場所を作り、そこに入りながらポツリと言った。
「俺達、別れよう」
「っ!?」
「考えたんだけどさ……俺とお前より、姉ちゃんとお前の方が……お似合いっつーか……世間的に普通っつーか……」
「圭!お前、自分が何を口走っているのか理解できているのか!?」
恭一郎は身体を巣の中に埋めようとする圭に向かって、声を荒げた。
「できてるよ……けどさ、そう思えてしょうがねーんだよ……一度は割り切れたのに……やっぱ姉ちゃんにも恭一郎にも幸せになって欲しいし……自然だろ、男同士より……」
「俺はお前がいいんだ!」
「ありがとな……こんな俺に夢見せてくれて……別れるってのはマジで言ってるからさ……でも、この服だけは置いてってくれよ……これがないと、俺死にそう……」
あの居酒屋小町での一件からずっと、圭は別れることについて考えては眠っていた。
別れる気なんてこれっぽっちもないのだが、どうしても聖と恭一郎が寄り添って立っている姿は、綺麗だろうな、自然だよなと思えてしまうのだ。
番なしで生きていけるのかという疑問はあるが、彼の匂いがする衣類があれば、何とかなるような気がしているのも事実だ。
「眠ってばかりなのは、現実逃避のためか?」
「多分、そうなんじゃないかな……ずっと眠くてさ……ホントはセックスもしちゃいけないんだろうけど……お前が隣にいると欲しくなってさ……」
どんな状況にあろうと、番がそばにいれば求めてしまう。
それがΩの性だった。
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