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凛はたった今自分を置き去りにして逃げて行った上級生と恋仲であると、そう、自覚していた。
一ヶ月前、教師に頼まれて運んでいた書類の束を階段で落としてばら撒いてしまい、必死になって掻き集めていたら、三年生の彼は笑顔で手を貸してくれたのだ。
それから校内で顔を合わせる度に声をかけられて話をするようになった。
快活な笑顔がよく似合う、友達がたくさんいる優しい上級生から特別扱いされているような気分になり、初めての経験に凛の心はムズムズと浮き足立った。
一週間前、ふざけて肩を組まれたときにはやたら胸が高鳴った。
男同士なのに。
先輩にとっては特に意味なんてない、他愛ないスキンシップでしかないのに。
抑えられない甘い高鳴りに成す術なく赤くなった下級生に「かわいい」と見惚れ、笑顔の上級生は、偶然生徒の行き来が途絶えていた三階渡り廊下の片隅で、そのままキスを……。
「さっき逃げた生徒の顔は確認できなかったが。男同士で抱き合って、一体、何をしていた」
凛は動揺する余り言葉が喉につっかえそうになった。
先輩と抱き合ってキスするところだった、そう正直に告白できるわけがなく、数秒間迷った末に何とか声を振り絞った。
「……すみません、郷野先生」
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