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今の凛にはただ謝ることしかできなかった。 二年生の受け持ちであり、授業で接したことはないが、厳しい教師として全学年に知れ渡っている郷野がそう簡単に許すはずがないとわかってはいたが。 「質問の答えになっていない」 郷野が開かれていた扉を閉め、鍵までかけるのを見て、凛の顔からはさらに血の気が引いた。 ああ、やっぱり。どうしよう。怖い。今すぐ逃げ出したい……。 ……ううん、しっかりしないと。 先輩のこと守らなきゃ。 「今、逃げたのは誰だ」 「……」 「教えたら今日のところは一先ず帰っていい」 凛は唇を噛んだ。 懸命に自分自身を奮い立たせると、身長一八二センチ、短髪で程よく引き締まった体型に上下黒のジップアップジャージを身に纏う郷野と向かい合った。 「学年、クラス、名前を言え」 「すみません、先生……オレ、言えません」 「……」 「あの、ちゃんと処分とか受けます、本当ごめんなさい」 目つきが怖いと大半の生徒から恐れられている郷野は、相変わらず容赦ない眼光で、身長一六六センチの一年生男子を真正面から射抜いた。 凛は本気で泣きそうになったが、郷野から目を逸らさずにもう一度謝った。 「すみません、郷野先生……」 「それがお前の答えなんだな」 郷野が目の前まで迫り、殴られる、と勝手に思った凛は反射的に両目をきつく瞑った。 しかし拳の代わりにやってきたのは郷野の唇だった。

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