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ううん、麻痺してるわけじゃない。 目を逸らしたいだけなんだ。 先輩がオレのことを置き去りにした、そんな冷たい現実から。 付き合っている、そう思っていたのはオレだけ。 先輩にとってはやっぱり他愛ない、何てことはない……関係だったんだ。 「藤崎」 跳び箱のそばで蹲ってひっそり涙していた凛にその呼号は届いた。 「きついか」 一ヶ月前から浮き足立っていた上級生との日々が呆気なく終わりを迎え、そうかと思えば口数の少ない教師にじわじわと襲いかかられて。 全てにおいて経験が浅い十六歳の生徒は急な展開についていけずにいる。 体も心も彷徨う凛を郷野は壊れ物のように抱き起こした。 「逃げて行ったあの生徒が気になるか」 逞しい腕の中で凛は力なく首を左右に振る。 「付き合ってるって、そう思っていたのは……オレだけでした」 「……」 「毎日ドキドキして、浮かれてたのは……オレだけ……」 郷野は凛を置き去りにして逃げて行った生徒への殺意を腹底に抑え込んだ。 彷徨い、途方に暮れ、微かに震えている頼りない体を温めるように抱いてやりながら。 「ど」をつけたいほどストレートに本音を告げた。 「藤崎。お前に()れたい」 ……いれたい? 「あの、何を、どこにですか……?」

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