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5-2
学年末の修了式。
欠伸を噛み殺すか堂々と寝つく生徒が過半数を占める中、式は終了し、大掃除を済ませ、春休みの注意事項が担任の口から述べられて。
三学期は終わりを迎えた。
春の陽気にぐんと近づいた麗らかな三月下旬であった。
「ねぇ、君」
クラスメートと下校しようとしていた凛を呼び止めたのは上級生の女子生徒、宮坂カヲリだった。
「今、ちょっといいか」
「まさか~」
「意外にも藤崎がタイプ?」
勝手に盛り上がる凛のクラスメートを綺麗さっぱり無視し、宮坂は戸惑う下級生男子の片腕を掴んだ。
帰宅する生徒の流れに逆らってそのまま校門の内側へ問答無用に連れ戻す。
拒む暇もなかった。
ろくに説明もされずに裏庭まで連れてこられた凛は、一つ年上の上級生女子とおっかなびっくり向かい合い、拉致された理由を尋ねようとした。
「あの……」
三白眼気味の宮坂にじっと見据えられて凛は縮こまった。
一体、何だろう……?
ファーストコンタクトとは思えない強引さに辟易していたら、やたら接近されて顔を覗き込まれ、凛はさらに縮こまった。
お手入れ不要な天然の長い睫毛を瞬きと共に幾度か震わせて、宮坂は、問う。
「君、誰?」
ここまで引っ張ってきておいてそれはないだろう、凛は呆気にとられた。
校舎から生徒の笑い声が聞こえてきた。
ほぼ初対面といってもいい二人の間を昼時の強風が通り過ぎていく。
「最近、君のことを見てる」
「え?」
「キョーノ先生。ここ最近、いつも目で追ってる」
君は、キョーノ先生の、何?
未練など何一つ抱かれていないと、凛はそう思っていた。
前触れなく切り出した別れに何の反応もなかったから。
簡単に諦めのつくちっぽけな存在。郷野にとって自分は取るに足らない生徒だと……。
オレ、郷野先生から忘れ去られたわけじゃなかったんだ。
「もしかして」
凛はどきっとした。見るからに勘の鋭そうな宮坂だ、郷野との秘められた関係に気がついたのかもしれない。
ビクつきながらも精一杯自分と対峙している下級生男子に向かって上級生女子は言う。
「全然似てないけど先生の隠し子か?」
「ち、違います、全然違います」
「じゃあ、何? 藤崎君、だったかな。ちゃんと答えてくれ」
凛はチェックのスラックスをぎゅっと握り締めた。
「……オレは……」
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