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公園を訪れた凛は定位置であったブランコに腰を下ろした。
日が、傾きつつあった。
夕方の澄みゆく冷気が肌身に心地いい。
西日に照らされた小ぢんまりした園内にいるのは以前と変わらず凛一人だけ。
先生、先生。
よくここで待ち合わせしましたね。卒業式の日も、この場所で車に乗せてもらって、海を見にいく予定でしたね。
「郷野先生」
郷野との約束が尽きたにも関わらず凛はこの公園へやってきた。
誰と落ち合うでもなく、ただ一人、しばらくここにいたい気分で。
つい無意識にその名を呟いて。
二学期後半から三学期にかけての真新しい思い出を記憶の浅瀬から拾い集めていた。
キキィッ
赤茶けた鎖を握ってブランコを漕いでいた凛は顔を上げた。
公園を囲むフェンス沿いにボディカラーがブラックの車が停まっている。
鎖を握ったまま凛はその車を見つめた。
少女めいた大きな双眸が限界まで見開かれている。
表通りから聞こえてくるか細い喧騒に割り込んだ扉の開閉音。
運転席から現れた郷野とブランコに座っていた凛の視線が重なった。
「先生」
「藤崎」
「時々、寄っていた」
夕闇に浸された街並みを遠目に、ハンドルに両腕を乗せた郷野は告白した。
「お前が待ってるんじゃないかと思って。約束もしていないのに。理由もなく期待して」
展望台のある高台公園へと続く道の途中、スペースのあるガードレール脇に車は停められていた。
星座のように瞬き始めた街。
西日と宵闇によるグラデーションが満ちた空では本物の星と、移動していく飛行機の点滅する明かりが灯っていた。
「どうして藤崎はあそこにいたんだ」
凛は膝の上に置いていた鞄を抱き締めた。
グレーのパーカージャケットを腕捲りした郷野は外の景色を目にしたままでいる。
「……宮坂先輩から聞いたんです」
「来年度、三年になる宮坂か」
「はい」
先生がオレのこと最近見てるって。
「……ああ、そうだな」
「……」
「実際はお前が入学してきた時から、ずっと、だ」
郷野の言葉に凛の胸は強く波打った。
『……俺は一週間よりも、もっと前から、お前を……』
そういえば、十一月のあの日、車の中で……先生はそんなことを言っていた。
もっと前って、オレが高校に入った時?
入学式の頃からオレのこと知ってたの?
「誰にも、お前自身にも気づかれないよう見ていたつもりだった、それが……卒業式にあのメールが届いてから」
制御できなくなった。
視界に入ればつい目で追いかけて、見えなくなるまで背中を見送った。
「宮坂が気づくのも当然だろうな」
「……先生の隠し子なのかって、聞かれました」
郷野の肩が振動した。笑ったのだ。
「恋人より親子の方が信憑性高いってことか」
宵闇に溶かすように呟かれた郷野の言葉は凛の胸に突き刺さった。まるで小さな棘みたいに、その心を浅く傷つけた。
そう。オレと先生はどう見てもお似合いじゃない。
生徒と教師。
高校生と大人。
見た目だって、一緒に並んだらちぐはぐでアンバランスで、しっくりこない。
だけど。
オレと先生は確かに両想いなんだ。
「ただ先生のこと好きなだけって、そう、答えました」
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