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「藤崎、まだ時間あるか」 通常の位置に戻された助手席シートに落ち着いていた凛は、唇に満遍なく刻まれた余熱に頬を紅潮させて、ぎこちなく頷いた。 イグニッションキーを回してエンジンをかけ、ハンドルを切りながら、郷野は言う。 「ホテル、行ってもいいか」 ホテルって、やっぱり、ラブホ……だったんだ。 そういった場所にまるで免疫がない凛は、車が駐車場へ滑り込んだ時点で緊張し、郷野がフロント横のパネル一覧から適当に選んだ部屋へ引率されるまで、始終押し黙っていた。 どうしよう。 先生としたことはあるけど、でも、こんな場所で……あんまりにも、その……それしか目的がないっていうか。 ちょっと恥ずかしい。 部屋に入室し、細い通路を進むと大きなベッドがすぐさま視界に飛び込んできて、凛はピタリと立ち止まった。 どうしよう、ちょっとどころじゃない、すごく恥ずかしい。 居場所に迷った凛は花柄の壁紙と意味もなく向かい合った。 あからさまに緊張している生徒に、郷野は笑みを零すでもなく、意味深な眼差しでか弱い後ろ姿をしばし見つめて。 背後から凛を抱き締めた。 あんなキスをされたら壊れる、と凛は思った。 空腹の肉食動物が獲物を平らげるみたいな、怖いキス……。 不安がる凛を余所に、郷野は軽々と生徒を抱き抱え、ベッドへ運んだ。 きちんと設えられたシーツの上に横たえると、緊張に漲る華奢な体を跨ぎ、カーディガンを脱がせる。 シャツのボタンを一つずつ外されていく段階で、恥ずかしさが頂点に達し、凛は郷野を正視できなくなった。 駄目、無理、死にそう。 普段は捲られるだけで脱がされることなんてなかったのに。 ベルトまで蔑ろにされて、ファスナーを下ろされる些細な音がいやに響いて聞こえ、凛は耳まで真っ赤にした。 ご丁寧に靴下まで剥ぎ取られる。 クイーンサイズのベッド上で凛はあっという間に裸にされた。 「藤崎」 恥ずかしい余り、横向きに丸まってぷるぷると震え始めた凛から、郷野は一端距離をおいた。 「俺も脱ぐ」

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