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郷野宅に凛がお泊まりして迎えた朝。 「ん……」 夜明け頃に目を覚まして郷野の寝顔に見惚れていた凛はそのまま二度寝し、九時を過ぎても起きる気配がなかった。 郷野も郷野で、自分の懐でぐっすり寝続ける生徒から離れるのが惜しく、暖かな寝床に長々と甘んじていた。 念のため風邪を引かないよう自分の長袖シャツを着せてみれば、予想通り、ぶかぶかだった。いくつかボタンを留め、肩の位置を合わせはしたが、首筋や鎖骨がこれでもかと覗いている。 うっすら開かれた瑞々しい唇から紡がれる寝息。 前髪の下に見え隠れする瞼。 静止した睫毛。 丸呑みにしたいくらい、何もかもが愛しくて、郷野は低く息をついた。 今日はどうするか。 日曜日で部活は休み、天気もいいし、藤崎を連れてドライブにでも出かけるか。桜が見頃のようだから花見もいいかもしれない。 ……もう一泊してもらうか? ……いや、それは藤崎の両親に申し訳ないか。 友達の家に泊まってくると伝えたそうだが、藤崎自身が嘘を重ねることにもなる。 藤崎が泊まりたいと言うんなら、その場合は仕方ない、泊まらせよう。 「……せんせ……」 郷野は今一度、凛の寝顔を覗き込んだ。 目覚めたかと思ったがそうではない。ぴくぴくと痙攣したのみで、その瞼が持ち上がることはなかった。 藤崎、お前、夢の中でも俺と会ってくれているのか。 手足を縮めて横向きに眠る凛にさらに身を寄せ、郷野は、無防備極まりない生徒にキスしようとした。 その時、まるで邪魔をするかのように、サイドテーブルに置かれていた郷野の携帯が鳴り出した。

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