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携帯の着信音に凛はまず目覚めを誘われた。 続いて聞こえてきた、何やらただならない郷野の物言いに、完全に覚醒せざるをえなくなった。 「勝手なことを言うな。こっちの都合も考えろ」 「……先生、あの……?」 もぞり、凛が頭だけ起こすと、携帯を片手に眉間に皺を寄せていた郷野は寝惚け眼の生徒から今やっと離れた。 カーテンが閉ざされた窓辺に立って背中を向け、日曜日の朝に電話してきた相手と会話を続ける。 「いい加減にしてくれ、真葵」 起き抜けでぼんやりしていた凛の頭の中に、マキ、というその名前はいやに鮮明に飛び込んできた。 日曜日の朝に、電話をかけてくる、女の人。 それって恋人……みたい? 「藤崎」 凛の視線の先で通話を終えた郷野は言う。 「すまない、帰ってくれるか」 「え?」 「なるべく急いでくれ」 ちょっと待ってください。 今の電話の相手、誰ですか? ほんとに彼女なんですか? まさかの展開に凛は絶句した。 珍しく焦った様子の郷野はシンプルな寝衣の上にパーカーを羽織ると、ベッド下に散らばっていた凛の服を纏めて拾い上げ、自分のシャツを生徒から脱がそうとした。 チャイムが鳴った。 一番目のボタンを外しかけていた郷野の指先はぴたりと停止し、凛は見慣れない教師の焦りに不安を募らせる。 「郷野先生」 「藤崎、いいか、余計なことは喋らなくていい」 シャツを脱がせるためにボタンを外そうとしていた指先が、今度は、かけられていなかったボタン全てを慌ただしい手つきで留めていく。 「様子を見て帰ってくれ」 「……誰が来たんですか? 電話の人ですか?」 「何か聞かれてもお前は一切答えなくていい」 先生、オレの言葉が聞こえてないみたい。 戸惑うばかりの凛をベッドに残して郷野は玄関へ向かった。 数秒後に扉の開閉音が室内に響き、訪問者とのやり取りも聞こえてきた。やはり郷野の口調はいつにもまして剣呑に尖らされている。 ちょっと待って。まさか、その人、ここに来るの? オレ、ベッドにいていいの? 「ど、どうしよう……あっ」 起き抜けで感覚が鈍くなっていた凛はやっと気が付いた。 毛布下の下半身、自分が何にも身に纏っていないことに。 郷野が拾い上げていた服を大慌てで手繰り寄せていたら、足音が、キッチンのスペースを通って、もうすぐそこまで……。

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