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不安を必死で掻き消そうとしていた凛に、逆に不安を煽る呼びかけが届いた。 冷めつつあるティーカップに縫いつけていた視線を上げれば、テーブル脇に立つ真葵にぶつかり、目を疑う。 「えっ?」 前回とは違うストライプスーツにネクタイ、同じスパイシーな香りを仄かに漂わせて、銀縁眼鏡をかけた真葵は呆気にとられている凛に微笑みかけた。 「女子とデートなんて。意外とチャラいコなんだね、凛クン」 「ッ……違います、別にデートじゃないです」 「藤崎君、この人は?」 宮坂に問われて、自分自身、真葵のことをよく把握していない凛は一瞬答えに詰まった。 「……郷野先生の知り合いの、真葵さん、です」 「真葵涼汰朗です。どうもこんにちは」 真葵は宮坂にも恭しく名刺を渡すと「この近くの病院に用事があってね」と、思いがけない再会に動揺している凛に説明した。 「成年後見人支援の一環として施設の催しに参加してきた帰りなんだけど。信号で停まってたら、何か見たことあるコがいるなぁって、思って。来てみたんだ」 真葵は凛の隣に腰かけた。 宮坂が注文したパンケーキセットに目を止め、店員を呼ぶと同じものを頼み、疲れたときは甘いものに限るよね、なんて女子高生に気さくに喋りかけている。 郷野も振り回されるマイペースぶりに凛はたじろぐばかりだ。 パンケーキセットが運ばれてくると、ナイフとフォークでパンケーキを切り分けては小まめに生クリームを乗せ、美味しそうに食す彼の隣で、縮こまってしまう。 「明日から始業式なんだってね。昨日、真一に聞いたよ」 モヤモヤしていた凛の胸を容赦なく抉った、真葵の何気ない一撃。 「二年生かぁ、一番楽しい時期じゃない? ハメ外す絶好のチャンスだよ」 「私は三年です」 「あ、そうなんだ? でもまぁ、一学期は高校生活じっくり楽しんでもいいんじゃない? ハッピーな思い出つくらないと」 「真葵さん、本当に司法書士の先生ですか」 真葵と宮坂が隣で交わす会話に凛は全く参加できずにいた。 昨日、郷野に会っていたと真葵にほのめかされて、胸がざわついている。 カチャカチャと食器同士の立てる些細な音が鼓膜に大きく鳴り響くような。 先生、オレにはメール一つもくれないのに、真葵さんとは会ってたの?

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