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凛はカーディガンのポケットに入れたままにしていた名刺と携帯の地図情報を頼りに真葵の事務所へやってきた。
初めて訪れる界隈、通りを一つ間違えたり別のビルへ入って迷ったりもしたが、何とか辿り着くことができた。
「これはこれは」
「すみません……突然来てしまって」
「とんでもない、で、今回はどういったご相談で? 何かトラブルでも?」
蛍光灯に明々と照らされた通路で返事に困る凛に、真葵は声を立てて笑った。
「さぁ、どうぞ。丁度、一息入れようと思ってたところだから」
真葵に促されて凛はおずおず入室した。
こういった場所へ来るのも初めてで、物珍しそうに辺りを見回す高校生を真葵は応接セットへ案内した。
書類は一纏めにし、ファイルは小脇に抱え、小型のICレコーダーはスラックスのポケットに突っ込んで、テーブル上を手早く片づける。
「生憎ながらウチにはココアもオレンジジュースもありません。うんと甘くするから、コーヒーで我慢してね」
イスに浅く腰掛けた凛は奥へ引っ込んだ真葵の背中を憮然とした眼差しで見送った。
「さてさて。突然、どうしたのかな?」
テーブルに置かれた二つのコーヒーカップからふわりと漂う白い湯気。
限界まで大きく見開かれた凛の双眸がうっすら霞む。
「真一じゃ物足りなくて俺のところに来た?」
スーツを脱ぎ、ワイシャツを腕捲りしていた真葵は端整な唇の片端を吊り上げてみせる。
長細い指は凛の顎に添えられていた。
心持ち持ち上げるようにして、まるで、キスする寸前の距離で問いかけてくる。
答えられずに、凛がただただ凝視していたら、傍らに立って微笑交じりに見下ろしていた真葵は……吹き出した。
「やだなぁ、凛クン」
絶句している凛から未練なく離れた真葵は向かい側に座り、淹れたばかりのドリップコーヒーを一口飲んで、背もたれにゆっくりと落ち着いた。
「冗談に決まってるでしょ。そもそも、君、俺のタイプじゃないし」
子ども扱いにも程がある。
いや、これは完全に……悪意あるイヤガラセだ。
「俺と真一の関係が気になるんだね」
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