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真葵は自分を追い払おうとする郷野にソレを突きつけた。 「昨日、居酒屋で愚痴に一時間付き合ってもらったし? そのお礼も兼ねて?」 スラックスのポケットから取り出されたICレコーダーに、わけがわからない郷野は無表情のまま、凛はきょとんとする。 「たまーに打ち合わせで使うんだけど。さっき間違えて録音ボタン押しちゃったかも、えーと、ね」 コンパクトな装置をいじり始めた真葵を前にして、きょとんとしていた凛の顔に、まさか……という焦りがじわじわと広がっていく。 「真葵さん……あの、まさか」 「この辺かな?」 真葵によって再生ボタンが押されてキッチンに流れ始めた会話。 『真一じゃ物足りなくて俺のところに来た?』 「わぁぁぁぁっ」 「ッ、どうした、藤崎」 「やめ、やめてくださいっ、真葵さん!」 「ちょっと巻き戻し過ぎちゃった」 真っ赤になった凛は我を忘れて真葵に飛びついた。 郷野より背は低いが、凛と比べれば上背ある司法書士は、意地悪に片腕をピンと上げ、柔な両手が届かない位置にICレコーダーを持ち上げてしまう。 「こんなのひどいですっ、ひど過ぎますっ!」 「まぁまぁ」 「藤崎とお前の会話か……?」 心底愉快そうに笑う真葵に掴みかかる凛。 本人は本気で阻止しようとしているつもりなのだが、傍から見れば、じゃれついているようにしか見えない。 実際、郷野の目にもそのように写っていて、心中穏やかではいられないのが本音だった。 「藤崎、真葵に密着し過ぎだ」 「せ、先生、耳塞いでくださいっ」 『真一とどんなセックスするの?』 「……お前、藤崎になんてこと聞いてるんだ」 「まぁまぁ」 「わぁぁぁぁっ!」 「こらこら、凛クン、近所迷惑だから」 真葵は片腕で凛を抱き込むとその口元を片手で覆った。 凛はこれ以上再生されるのを涙目で嫌がり、堪忍袋の緒が切れかけた郷野は二人の元へ近づこうと。 『真一、俺に返してくれない?』 『嫌です』 郷野はぴたりと立ち止まった。 聞き慣れない、意志の強さを伴った、きっぱりと断言した凛の声に反射的に意識が集中した。 『郷野先生はオレのものです』 掌で口を塞がれた凛の今の心境は、正に、穴があったら入りたい、であった……。

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