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番外編-擦れ違いの魔法をかけられた狼先生と仔兎生徒
※かなり昔の某ファンタジー映画のパロとなっています
郷野と藤崎凛、惹かれ合う二人にかけられた呪いのループ魔法。
夜になると郷野は狼の姿に。
朝になると凛は仔兎の姿に。
共に人の姿でいる時間を失われてしまった二人。
でも、それでも、二人の絆が揺らぐことはなかった……?
「先生、月が綺麗です」
郷野宅。
カーテンと窓を開け放し、夜空にぽっかり浮かぶ月を部屋から見上げ、凛は呟く。
狼郷野のそれはそれは暖かなフカフカお腹を枕にして。
「月を見ていたら、なんだか、懐かしい気持ちになったりしませんか?」
制服姿の凛は狼郷野の規則正しい鼓動を感じて自然と笑みを浮かべた。
一方、狼郷野はというと。
不安や焦燥でいっぱいだった。
ずっとこんな日々が続くのか、呪いの魔法が解ける日は来るのか、それは果たしていつになるのか。
鈎爪のない手で愛しい生徒の頬を撫でることはもう二度と叶わないのだろうか?
ふかふかした極上の枕に頭を預けて凛がお月見を楽しんでいる間、狼郷野は一人、いや、一匹密かに延々と懸念を巡らせる。
そして翌日。
「授業中にSNSの話をしたいのなら体育館から出ろ」
朝を迎えれば人間の姿に戻る郷野先生、本日も授業中お喋りしていた生徒に容赦しない。
教師らしからぬ目つきの悪さに竦み上がった生徒達は授業に集中しようとするものの、ここ最近、どうしても無性に気になることが一つ、ある。
「ペアになってラリーを続けろ、なるべくシャトルを落とすな」
グレーのフード付パーカーを着た郷野の腹の辺りが変に膨らんでいる。
しかも時々動く。
もぞもぞと生地が揺れていたかと思うと、たまに、それはジッパーの間から顔を覗かせるのだ。
それは可愛い小さな小さな仔兎が。
「そことそこ、それからそこ、ちゃんと集中しろ」
つい気を取られてシャトルを落とした生徒達は慌てて「ふぁい!!」と返事をしたのだった。
夕刻、郷野宅。
窓からいっぱいの西日が差し込む中、ベッドに腰掛けた郷野は自分の膝上ですやすや眠る仔兎凛を見つめていた。
ぺちゃんと横になってか弱い四肢を投げ出している。
長い耳の付け根をそっと撫でてやれば小さな鼻をヒクヒクさせた。
学校では決して見せない笑みを郷野は口元に僅かに刻む。
やがて日が傾く。
太陽が西の彼方へ沈んでいく。
「……先生」
夜を迎えれば人間の姿に戻る凛、制服姿で午睡から目覚めてみれば。
すぐ傍らに漆黒の狼郷野が蹲っていた。
「先生、今夜もお月見しましょう」
凛、俺はいつその姿のお前に鈎爪なき手で触れられるんだろう?
「今夜も月、綺麗ですね」
その日も郷野は仔兎凛をパーカーの内側に仕舞って、肌身離さず、一日の勤務を終えた。
速やかに帰宅すると膝の上でまた午睡にまどろむ小さなか弱い仔兎凛を優しくあやしてやる。
やがて日が傾く。
太陽が西の彼方へ沈んでいく。
途切れゆく夕日の消滅に従って仔兎凜は人間の姿に戻っていく。
カーディガン、チェックのスラックス、ネイビーの靴下。
夜の訪れと共に華奢な男子高校生へ。
夜の訪れと共に郷野は狼の姿へ……。
「……先生」
「凛」
郷野は狼の姿にならなかった。
仔兎から人間の姿に戻った凜と、人間の姿のまま、向かい合っていた。
久し振りに手にした。
共に人の姿でいる時間。
「……先生、これって、魔法が解けたんですよね?」
嬉しそうに顔を綻ばせて、弾んだ声で問いかけてきた凜に、郷野は返事もしないで。
かけがえのない愛しい生徒にキスをした。
蓄積されていた不安や焦燥を蹴散らすように郷野は凛に触れた。
肌と肌が重なり合って覚える温もりに我を忘れそうになるくらい、夢中になった。
「ぁ……ぁ……せん、せ……っ!」
あっという間に裸にされた凛はシーツにぎゅっとしがみつく。
背中に覆いかぶさる郷野の片手は股間を大胆にまさぐり、もう片方の手は胸の突起の一つを捕らえ、強弱をつけて揉み転がしていた。
ペースが速い。
凛の意識はまるでついていけない。
「ゃ……!」
背筋にかりっと歯を立てられた。
うっすら赤く色づいた皮膚を、今度は、舐められる。
じわじわ疼く痕は舌先が執拗に往復する度に軽く痺れて、凛は、身を捩った。
郷野は震える凛のものをしごき始めた。
先走りの雫がシーツに小刻みに散る。
真っ赤になった凛はさらにシーツを握り締めた。
「ぁ……っぁ……っ……ん!!」
背筋やうなじに執拗に音を立ててキスが刻まれて。
自分より上背のある何歳も年上の男から加減なしに追い立てられて、凛には、成す術もなく。
筋張った五指の内側で速やかに火照った熱源が白濁を弾いた際には、涙を。
……先生が優しくない。
……狼だった方が、オレが兎でいたときの方が、優しかった。
「……っ……」
頑なにシーツにしがみついて必死で涙を堪える凛を、郷野は、抱きしめる。
少し長めの髪に鼻先を押しつけて。
すっぽりと簡単に腕の中におさまってしまう体の感触を全身で噛み締めた。
「……俺は怖い、凛」
凛は透明な涙の膜の張った双眸を忙しげに瞬きさせた。
「怖かった。不安で押し潰されそうだった。今も、そうだ」
また狼の姿に戻るかもしれない、そう思うと、どうにかなりそうだ。
うつ伏せていた凛はもぞもぞと顔を上げた。
肩口に顔を埋めている郷野を見ようと、一生懸命、首を伸ばす。
「先生、オレは……先生がずっと狼でいたって……嫌いになんかなりません」
滑々とした肌に額をくっつけたまま、郷野は、生徒に見えないところで自虐的な笑みを零した。
俺はお前みたいに清らかじゃない。
仔兎のお前だってもちろん可愛いが。
こうして触れ合うことのできなくなる喪失感は身を切り裂くほどの痛手に等しいんだよ、凛。
「せ、先生……」
ベッドに仰向けとなった凛は心臓が破れてしまうんじゃないかと思った。
「……っ……」
すぐそばに裸の郷野がいた。
凛の両足を開かせて、挿入時と同じポジションで、腰を据えている。
だが彼はまだ愛しい生徒と繋がるまでには至っていなかった。
深く深く奥までずっと愛したい、そんな危うい衝動を少しでも抑えるため、郷野は。
一度自ら達することにしたのだ。
最初は視線を逸らしていた凛だったが、時に洩れる低い息遣い、一定のリズムで連なる淫らな音色を聞き流すことができずに、伏し目がちとなって郷野を見ていた。
下腹部の辺りがきゅっと痛んだ。
何もされていないのに呼吸が上擦りそうになった。
筋張った五指に見え隠れする熱源が視界に入ると体の一部が勝手にひくついて。
何故だか独りでに涙が零れて。
俯いた郷野の睫毛が震えているのに気がつくと胸の高鳴りが限界に達しかけた。
「は……ッ」
凛の瑞々しい肌に一気に飛散した白濁。
凛は、まるで自分がそうなったかのように、ぶるっと肢体を痙攣させた。
「……せ……んせい……」
郷野が抑えようとしているのに反して凛の昂ぶりが増していく。
郷野のもので湿らされた肌、濃密な泡の温みを感じ取って、赤面する余り崩れてしまいそうになる表情を咄嗟に片腕で半分隠す。
早鐘のように心臓が脈打つ凛の視線の先で郷野はゆっくり顔を上げた。
「……凛、いいか?」
その眼差しに胸を火傷しそうになりながらも凛はこくんと頷いた。
郷野の動きに合わせてベッドが軋んだ。
凛は横向きにクッションを掻き抱いて声を押し殺す。
開かされた両足のつま先が何度も虚空を蹴った。
「んんん……っっ」
きつく熱く郷野をどこまでも締めつける。
熱源のかたちを否応なしに思い知らされて、こんなにもと、興奮で胸底を焦がしてしまう。
さっきの、あんな郷野先生、初めて見たから……。
あんなに縋るように見つめられたら、オレ……。
「あ……っぁ、っ……ン、ッ」
凛の腕の中からクッションを奪い、正面を密着させ、天井を向かせた凛に郷野は口づけた。
深々と唇を交わらせながら後孔深部にもペニスを激しく擦りつける。
根元まで埋めきって粘膜奥へ届かせた先端で重く突き上げる。
「ふぅぅ……っん!」
熱せられた凛をさらに火照らせるように郷野は大きな掌で頬をなぞった。
爪先に長めの髪を絡ませる。
ほんのひと時、呼吸一つすら逃がしたくない傲慢さに心身を支配されて、郷野は凛の唇を貪った。
絶え間なく奥深く届く熱源の振動に揺らめき、息のできないキスに凛は無意識に次から次に涙を溢れさせる。
郷野が優しくないと、そんなことは、もう思わなかった。
先生は怖がってる。
オレに縋りついて、オレと重なることで不安を消そうとしてる。
先生、気づけなくてごめんなさい。
昼は先生のお腹の上で一人で安心して、夜はのんびりお月見して、ごめんなさい。
ずっと先生と一緒にいられることが本当は嬉しくて、オレ……。
「……きついか?」
凛はぎゅっと目を瞑ると首を左右に振った。
延々と続くかと思われた律動を中断して自分を覗き込む郷野に、自らも、唇を寄せる。
年の離れた体育教師を頼りない細腕で抱きしめる。
「先生……ください……」
「……」
「最後まで、オレに……ぜんぶ……」
「は……っぁん……ぁぁ……」
ベッドの上で、郷野の真下で、凛は陶然と身悶える。
片足の膝裏を掴まれて持ち上げられ、ずちゅずちゅと後孔奥をペニスで掻き回されながら、熱源をしごかれる。
「あぁ……ん……っせんせぇ……」
止め処なく溢れ落ちる蜜の出所を親指で緩やかに擦られると全身がびくんびくん跳ねた。
自分自身をひたすら追い込んでいたのが、凛と快楽を共有するかたちへ切り替えて、郷野は愛しい生徒を惜しみなく喘がせる。
自分のことをすべて受け止めたいと言ってくれた凛の眼差しは却って郷野に歯止めをかけさせた。
「怖い」と抜かしてしまった先刻の自分を殺してやりたい。
姿が変わろうと揺るぎない絆を淀みなく信じていた凛と比べて、俺は、弱い……。
後悔を穴埋めするように郷野は凛に惜しみなく快楽を注ぎ込む。
すでに把握済みの、彼が最もいいとするところに、強めに刺激を与える。
「っやぁぁぁ!」
凛は凛で郷野の変化に気づいていたが。
ただ一心に全力で追い上げられて、もう、極みに達するしかなくて。
シーツに深い皺を刻んで大きく仰け反り、郷野の手をしとどに濡らした。
急激に強まった締めつけに郷野も間をおかずに後に続く。
「ッ……」
「ぁ……っんぅぅ……っ」
郷野のもので一瞬にして濡れそぼった体内。
自分の深みで放埓な脈動を刻む郷野を何よりも近くに感じて、凛は、密なる交わりの温度に意識を溶かしていく……。
朝、郷野宅。
寝返りを打った郷野は手応えのない隣の空白に速やかに目覚めを誘われた。
「……」
凛は仔兎の姿になっていた。
毛布をそっと持ち上げてみれば仰向けになってくぅくぅ眠っている。
自分の魔法だけが解かれた郷野は頬杖を突いて仔兎凛を見つめる。
そうだな、この姿だと懐に入れて、ずっと一緒にいられる。
それもそれで幸せか、なぁ、凛?
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