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「お前のものになってるの、わかるか」
しぶとく熱を宿したままの郷野に、今、正に抉じ開けられている最中の凛は何度も瞬きした。
ベッドに仰向けになり、下肢に何も身に着けていない生徒を、郷野は見下ろす。
彼自身の唾液で濡れそぼったペニスの頂きを捻じ込んだばかりで、きつく締まる後孔に目尻を引き攣らせながらも、焦らずゆっくり進めていく。
窮屈な内壁の抵抗に逆らって、奥を目指し、突き入れていく。
「お前と一つになってる、藤崎」
互いの体が交わるところへ真っ直ぐ向けられている郷野の視線の先に、唐突に翳された、柔な手。
「や、です……そんな……見ないでください」
過剰な視線に恥ずかしさが増して片手で遮った凛に対し、郷野は、浅く腰を動かした。
まだ最奥に至っていない段階で、熱塊に押し拡げられている粘膜内をじっくり擦り上げた。
「あ……!」
ある場所ばかりを集中的に刺激されて凛は遮るどころではなくなった。
郷野の両手に両膝を固定されて開かされている下肢、腹部を頻りに波打たせ、ベッドの上で身悶えた。
「そ……そこ、変です……っ」
「お前のいいところだ。忘れたか」
「え……っ、んん……んっ!」
「ここが感じやすい。この間、自分で見つけただろ」
「あーーー……っ」
熱源の頂きが奥まったある場所に強めに擦りつけられた。
きつく締まる後孔内で密に繰り返される摩擦に凛の性器までもがぴくぴくと揺れ動く。
キッチンで一度達して落ち着いていたはずが、見る間に芯を取り戻し、発熱していく。
「だ、め……ぇっ」
半開きの双眸を潤ませて全身で感じている凛に郷野は問い続けた。
「ホテルの部屋で俺に跨って探したの、覚えてないか」
「せんせっ、やぁっ、そこばっかり……!」
「……お前のなかで溶けそうだ、凛」
名前を呼ばれ、一点に的を絞った摩擦が執拗に繰り返されて、迫りくる絶頂に凛の肢体は張り詰めた。
「ッ、ッ、ッ……!!」
身も心も弾けるような強烈な快感に囚われる。
自分の奥底で熱く息づいている郷野をきつく締めつけ、呼吸さえ忘れ、成す術もなく極まった。
射精を伴わずに上り詰めて虚脱寸前まで追い込まれた生徒を教師はゆっくりと抱き上げた。
短いひと時に汗をかいて脱力している華奢な体を膝上に乗せ、カーディガンを脱がせる。
頬や額に張りついていた髪を丁寧に一本ずつ取り除く。
「ン……」
郷野は寝息じみた声を洩らす凛を改めて抱きしめた。
「凛」
本当にぐずぐずに溶けてしまいそうだ。
まだ凛の奥に我が身を沈めたままでいる郷野は深く呼吸した。
「お前と出会ってもう一年だな」
暗く静かな部屋、意識が定まらずに力なく自分の胸にもたれかかる凛に囁きかける。
「出会ったときから特別だった」
この視線を造作なく奪った。
名前を、その全てを知りたくなった。
自分の全てを知ってほしいと思った。
「去年の入学式、俺はお前しか見えてなかった、凛」
自分の膝上で脱力していたはずの凛の体が、ふと、震えた。
伏せられていた睫毛が徐々に持ち上がり、潤みきった双眸が瞼の下に現れる。
「郷野先生」
頬を赤らめてパーカーに爪を立て、もぞりと顔を上げた凛と郷野は惜しみなく視線を繋ぎ合わせた。
「俺の名前、呼んでみろ」
自分の奥底で重たげに呼吸している郷野をひしひしと実感していた凛は目を見開かせた。
まだどこか靄がかかっていた頭の中が一瞬にしてクリアになる。
「嫌か?」
凛は首を横に振った。
十六歳の自分より一回り年上である二十八歳の体育教師の名を、瑞々しい唇で、呼んだ。
「……真一」
しかしいざ口にしてみると想像以上に照れくさくて。
「先生」
すぐにそう付け足した凛に郷野はいとおしげに苦笑した。
「あ……」
再びベッドに寝かせると最奥まで熱源を沈めきった。
内壁の狭間に頂きをめり込ませ、どこまでも味わい尽くしたくなる居心地に、悦びの雫を溢れさせる。
こちらが動かずとも搾り上げられるような熱烈な蠕動に自然と息が上がった。
「……先生でいっぱいになってます、オレのなか……」
目を閉じて愛しい生徒の鼓動を陶然と噛み締めていた郷野が瞼を開ければ。
息苦しそうにしながらも、懸命に笑顔をつくろうとしている凛がそこにいた。
自分自身の着衣の温もりが煩わしく、しかしパーカーを脱ぎ捨てる時間も惜しんで、郷野は彼の最奥で動き出した。
「あっ……はぁっ……あっあっ、ん……っ」
シーツの上に投げ出されていた手に手を重ねて指を絡め合う。
上り詰めていくひと時を、尊い熱を、共有する。
「先生っ、せんせ……っ」
「凛……名前で……」
「ッ……ッ……!」
「俺を呼んでくれ」
激しく揺さぶられて体中火照らせながらも、どうしても恋しい教師を名前で呼ぶことができずに、凛は言うのだ。
「っ……卒業したら……ちゃんと名前で……呼びます」
凛のすぐ真上で律動していた郷野は氾濫しそうになるまでの愛しさに従ってその唇に口づけた。
欲してやまない、誰よりもかけがえのない生徒に。
一晩中遠吠えしても治まりそうにない想いを止め処なく募らせて。
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