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9-1 エピローグ
「藤崎君」
体育館で行われた式典の帰りだった。
前年度に引き続き同じクラスになった友達と教室に向かっていた凛が振り返れば、三年生となった宮坂が背後に立っていた。
「おっと。俺達お邪魔みたい」
「先に行っとくな~」
修了式後にも似たような光景に出くわし、すっかり勘違いしているクラスメートがとってつけたような笑顔で走り去っていく。
凛は呆然と友達を見送り、その隣に宮坂はすっと並んだ。
「すっかり散ってしまった」
本校舎と体育館棟を繋ぐ一階の渡り廊下に二人は差しかかっていた。
他の生徒達が騒がしげに通り過ぎていく中、何となく足を止め、中庭に悠然と佇む葉桜に目をやる。
花冷えの昨夜とは打って変わって春らしい陽気に包まれた四月の上旬。
穏やかな青空と校舎を背景にして萌え立つ若葉が日の光に燦々と輝いていた。
「今年は早かった」
「そうですね」
「ところで、君、K先生のことを大胆にも自分のモノ発言したそうだな」
急な話題転換、その内容に凛は目を剥いた。
立ち止まっていた宮坂が足早に歩き出し、慌てて後を追いかける。
渡り廊下を抜け、各々の教室へ戻る生徒で混み合う階段を踏み外しそうになりつつ、上級生女子に小声で問いかけた。
「ど……どうして知ってるんですか?」
「聞いたんだ」
「誰からっ?」
「お稲荷さんから、だ」
凛はきょとんとした。
先を行く宮坂は「その顔、面白い」とチラリと顧み、生徒の波間を擦り抜けて階段を上っていく。
「今のは私が勝手につけたあだ名。似ているから。真葵さんのことだ」
すいすい上りながらも踊り場で待ってくれていた宮坂に追い着き、凛は、耳を疑った。
昨日、ファミレスで悩みの種を植えつけられた凛は心ここにあらず、だった。
会話に参加できずにいた悩める男子生徒の隣で、宮坂と真葵は、メールアプリのID交換をしていたらしい。
「言っておくが。私からK先生と君の仲を知っていると教えたわけじゃないぞ」
「K先生って、それ、やめてくださいっ、バレバレですっ」
「うーん。狼先生と仔兎生徒がどんな関係か知っているのか、それとなく聞かれたから」
「聞かれたからっ?」
「それとなく知っていると答えた」
「それとなく、じゃないです、そんなの……後、狼はともかく……仔兎って……」
真葵さん、やっぱり何を仕出かすかわからない人だ。
「他に何か言ってましたっ?」
階段を上り終えた宮坂は頷いた。
気になる凛は当然「何て言ってました!?」と必死になって再度尋ねる。
宮坂は長い髪をサラリと翻して下級生男子と向かい合い、教えてやった。
「今年の目標は花咲かじいさんになって灰から花を咲かせる、だそうだ」
……真葵さん、やっぱりよくわからない人です。
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