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後日談-狼先生と仔兎生徒のGW
ゴールデンウィーク、凛は郷野宅へ二度目のお泊まりにやってきた。
しかも今回は二泊……で。
「味つけ、濃くないか」
ダイニングテーブルで向かい合い、郷野手作りの晩ごはんを食べていた凛は「おいしいですっ」とお茶碗片手に笑顔で返事をした。
「辛くないか。もう少し薄くした方がよかったんじゃないのか」
「丁度いいですっ」
「そうか」
前回は緊張する余り、箸を逆に持って食べたり、ろくに噛まないで飲み込んだり、正直、何を食べたのかも思い出せない。
しかし今日の凛は落ち着いていた。
郷野との夕食を心から楽しむことができた。
「おかわり、あるからな」
それに郷野が向かい側で食事をする様を繁々と眺める余裕もあった。
先生って食べ方が綺麗だ。
お茶碗の持ち方とか、お箸の使い方とか、きちんとしてるっていうか。
車で食べるときは気にしたことなかったけれど、うん……食事する郷野先生もかっこいいです。
「……凛」
あ、見過ぎちゃったかな。
「ついてるぞ」
「わっ?」
頬に知らず知らずくっつけていたご飯粒をとられたかと思えば、目の前でぱくっと食べられて、凛はぼふっと赤面するのだった。
二人で後片付けを終え、郷野が借りてきたDVDの映画を三人掛けソファに並んで座って観賞した。
映画が終わったのは夜十時を過ぎた頃。
ふわぁ、と小さな欠伸をした凛に密かに背後から見惚れ、郷野は、天然茶髪の頭を撫でた。
「お前には少し難しかったか」
「ッ……そんなことないです、面白かったです」
いつになくムキになって言い返してきた凛に小さく笑う。
「その……昨日の夜、今日が楽しみで、あんまり眠れなかったので……」
しょぼしょぼする目元を擦りながらそんなことを告げた生徒に、郷野は、甘い感動を覚えた。
「先生、お風呂、先にどうぞ。オレ、その間に宿題済ませちゃいます」
トートバッグに入れていた数学プリントやら筆記用具を取り出そうとした凛。
郷野はその手をやんわりとった。
「凛」
二人きりのときだけ、教室では決して口にしない呼び方で恋人を呼び、華奢な肩を抱き寄せる。
「一緒に入らないか」
恋しい教師のまさかのお誘いに、凛の少女めいた双眸は、ぶるりと震えた……。
ちゃぷん……。
浴槽に溜められたお湯。
丁度いい適温で爪先から胸の下までじっくり温めてくれる。
しかし凛は全く寛ぐことができない。
一緒に湯船に浸かった、真後ろにいる郷野を意識する余り、カチンコチン、爪先も力に漲って硬く丸まっている始末だ。
お、お、お風呂、先生と一緒にお風呂……っ。
先程までのリラックス感は見事に遠退いて、やたら俯き、体育座りして膝を抱き、縮こまってしまう。
そんな凛に郷野は……ド緊張している本人には悪いが、甘い感動を全身で味わい、濡れたうなじに釘付けになっていた。
「っ、ひゃ?」
ふと肌身に届いた長い指。
うなじをそっとなぞられて凛はどきっとした。
「せ、先生」
少し長めの髪が血色のいい肌に張りついて、瑞々しさに満ちていて。
そのままうなじから背筋へ。
肩甲骨の溝を辿って、何度か上下に撫でた。
「っ……くすぐったい、です」
湯船の中でブルブル震える凛に郷野はさらに身を寄せる。
「じゃあ、これなら、どうだ」
お湯を緩やかに波打たせて、郷野は、後ろから凛をゆっくり抱きしめた。
筋張った両腕が肌身にしっかり絡みついて、凛は、湯船の中にいるのにゾクゾクした。
「せ、先生」
「まだくすぐったいか」
「……くすぐったいです」
「敏感だな」
静かな浴室に低い囁きがそっと溶けていく。
「明日、どこか出かけるか」
どっきんどっきん、爆音並みに心臓がうるさく鳴っていた凛は何度も瞬きした。
「お前の行きたいところに」
普通の会話で緊張を解そうとしている郷野に、凛は、震える声で返事をする。
「先生の……お家にいたいです」
「……」
「ゴールデンウィーク、部活とかで忙しい先生と一緒にいられるだけで、オレ……楽しいから」
抱擁のみで留めておくつもりだった体育教師だが。
あんまりにも嬉しいことを言ってくれる愛しい生徒に、つい、自制の枷が緩んだ……。
お湯の中で意味深に動く郷野の両手。
「……っせんせ、っ……こ、こういうコトしないって、言ったのに……っ」
お風呂のお誘いの際に「ただ一緒に入るだけだ」と言っていた郷野は、腕の中で身を捩らせる凛の耳元で低音の囁きを滴らせた。
「お前があんまりにも美味しそうだから」
「お、おいしそ……っ?」
「止められない」
郷野の両方の手、どちらとも凛の性器に纏わりついていた。
筋張った長い指全てによる愛撫。
それだけでも凛の心身には堪えるというのに、その上。
ぱしゃっぱしゃっ……ぱしゃんっ……。
やたら音が。
湯船の中の動きに合わせてお湯が揺れ、小刻みに波打って、凛の鼓膜まで敏感にさせるような。
先端と、根元を、同時に擦り上げられる。
上気した裸身はビク、ビク、痙攣して、狭い浴槽の中でもどかしげに張り詰めた。
「だ、だめ……っよ……よごしちゃいます……お風呂……っ」
普段よりも反響する浴室で必死に嬌声を堪え、震える唇から押し出された言葉に、郷野は答えた。
「汚してみろ、凛」
ぱしゃっぱしゃっぱしゃっぱしゃっ。
「ん、ん、ん、ん、ッ、ン、ン!!」
郷野の腕の輪の中で凛は仰け反った。
自身をすっぽり包み込み、悩ましげな愛撫を綴る大きな手に、あっという間に絶頂に導かれて。
「やーーーー……!!」
お湯の中で……達した。
「……もう先生とは、お風呂、入りません」
湯船の中で成す術もなく達してしまい、恥ずかしくて、いじけて、ベッドではなくソファで寝ると言って聞かない凛。
風呂上がりの体に持参の服を着、タオルケットを巻きつけて項垂れている凛の真正面に郷野は座り込んだ。
毛先から雫が落ちそうになっている天然茶髪の頭をタオルでわしわしと拭いてやる。
「つい浮かれた」
雫が散って、目をぎゅっと閉じていた凛は、郷野の言葉に最大限耳を傾けた。
「お前と初めて過ごすゴールデンウィークに、柄にもなく、な」
「……冬休み、春休み、一緒に過ごしました」
「大型連休はまた違うだろう」
郷野先生、そういうの、あんまり興味ないのかと思ってた。
世間が浮かれることに流されないっていうか。
周囲がどれだけはしゃいでも、自分はいつも通りの時間を過ごす、そんな性格なのかなって。
「長期休暇と違って短い分、有難味がある」
「……何となくわかります」
「お前と家で観る映画を選ぶのも楽しかった」
前日、郷野は一人でレンタルショップに立ち寄り、どの作品にしようか、いつも以上に悩んだ。
自分の趣味に突っ走らず、話題があった新作に的を絞って、ホラーはもちろん除外し、サスペンスやミステリーはどうなのだろうかと頭を捻って。
凛と共に過ごす休日を心待ちにしていた。
「許してくれるか、凛」
ずっとわしわしされていた凛はコクンと頷いた。
そして。
今度はソファに座った凛が床に跪いていた郷野の髪をタオルで拭き始めた。
郷野は片目だけ瞑り、ぎこちない手つきながらも、やたら真剣な表情を浮かべて集中している凛を見つめた。
「……でも今日はソファで寝ます」
随分と頑なな凛に小さく笑った。
二日連続は、ちょっと……アレなので。
明日までガマンしてください、先生。
「ン……」
十分ゆとりがあるはずの三人掛けソファで凛は寝返りを打った。
落ちやしないかと、一緒にソファで横になっていた郷野は薄目がちに生徒の行方を見守る。
「ん」
凛は落ちやしなかった。
郷野の胸に顔を埋め、居心地のいい場所に落ち着いた。
夜明けまでまだ長い。
寝息を立てて眠りにつく生徒を懐に抱いて郷野も目を閉じる。
まるで巣のような。
愛しい温もりに満ちた暖かな寝床。
「おはよう、凛」
「……おはようございます、先生」
目が覚めればかけがえのない人がすぐそこに。
ゴールデンウィークお泊まり、二日目。
昼下がり、天気はよくてお出かけ日和、閉ざされたレースカーテンと窓の向こうは清々しい爽やかな空気に満ちているようだった。
逆に、閉め切られた郷野宅に満ちるのはあられもない露骨な熱気であり。
「濡れてるな、お前の」
壁際のベッドで住人の低い囁きが落ちた。
普段、学校へ向かう際は整髪料を軽く馴染ませている髪を手つかずにして。
凛々しい眉どころか鋭い双眸にまでかかり気味な前髪。
愛しい生徒へのひた向きな欲望に踊らされて浮ついた眼差し。
その視線を一身に浴びて、凛は、小さく鳴いた。
「ま、まだお昼なのに……明るいのに……こんな、何回も……」
そう、何回も。
午前中から郷野に愛されっぱなしの凛。
日差しが差し込む部屋で全ての肌を曝した二人。
密に重なった下肢は今のところ動きを止めているが、深く繋がった状態にあり、とてもじゃないが一休みとは呼べなかった。
「触ってみろ、凛」
シーツに預けていた片手をとられて、自身を握るよう、郷野に強請られた。
導かれて触れてみれば確かに濡れた性器。
芯を残し、発熱の余韻を引き摺っている。
「もっと、しっかり、だ」
ぎこちなく触れていたら、自分の手の上から大きな手が重なり、力を込められた。
……こんな時間から、オレ、先生とずっとこんなこと。
外から聞こえてくる真昼のノイズに凛はピクピク反応してしまう。
その中には子どもの笑い声も混じっていて、ふとした拍子に罪悪感が頭を擡げることもあった。
しかし些細な葛藤は欲深い郷野によって敢えなく蹴散らされていく。
グチュ……
「あッ……せんせ、やだ……動かしちゃ、や……ッ」
止めていた律動を再開しようとしている郷野に凛は慌てた。
郷野は生徒の哀願を聞き入れなかった。
凛を愛撫しながら緩やかに腰を波打たせ、むしろ濃厚な刺激を仕掛けてきた。
「まだ足りない」
前後を同時に攻められ、華奢な肢体を切なげに捩じらせる凛を見つめ、郷野は頭を屈めた。
「俺は昨日からお預けを食らってるんだ、凛」
胸の突端でほんのり色づく突起に飢えがちな舌先を絡ませる。
「ぁっっ」
「我慢した分、食わせてもらうからな」
「ッ……オレ、は、食べ物じゃないです……せんせ……」
胸元に顔を埋め、執拗に我が身を食んでくる郷野に、凛は甘く上擦る声を振り絞った。
「そうか?」
「ッ、ッ、食べ物じゃないですッ」
こうも明るいと何もかもが晒されるようで。
ベッドの上で居た堪れなさそうにしている凛に、郷野は、浅く歯を立てた。
「んッく」
「俺には……病みつきになる味だ」
「か、噛んじゃ、嫌、です」
浅く歯を立てたばかりの突起を今度は優しく舐め上げる。
うっすら刻みつけられた微かな痛みが、優しい舌先に慰められて、ジンジン疼いた。
まだ掌に捕らわれている凛の性器と同様、ぷっくりと起立していく。
「……可愛いな、お前の」
郷野の発言に凛は耳まで満遍なく真っ赤にした。
「も、ぉ、やめ……ッあ……っあ……っ」
緩々と大きく抜き挿しが始まる。
郷野の硬くて熱いモノに体底を抉じ開けられていることを改めて痛感する。
「ぃ、ゃ、ぁ、っ」
「……凛」
目一杯押し開いて、ぐずぐずに溶かしてしまうように、今日何度も摩擦しているところを再びペニスで強めになぞった。
きつく締まる肉奥に頂きを押しつける。
自分のカタチを凛に覚え込ませる。
「せ、ん、せ……ッ」
甘い眩暈に囚われる。
ちゃぷん……。
「ん……っん……っん……っ」
昨日、あれだけ拒んだばかりだというのに、郷野にお風呂をせがまれて、断ることができなかった凛。
ちなみにまだ夕方前だ。
曇りガラスは日の光に満ち、天井の照明を点ける必要もないくらい白々としていて、明るい。
凛はお湯が溜められた浴槽の底に両膝を突き、縋りつくようにタイル壁に正面からもたれていた。
しっとり濡れた華奢な肢体にぴたりと密着する屈強な体。
ゆっくり、交わりを吟味するように、揺らめく腰。
「ぁ……ん……っ」
後ろから郷野に貫かれて、必死で口元を片手で押さえ、凛は声を我慢する。
しかし。
筋張った片腕は隙だらけの脇腹から正面へ、股間にまで差し込まれ、発情を強制するように性器をしつこく撫で擦っていて。
もう片方の手は、先程まで舌先で構っていた胸の突起に添えられ、指の腹で丁寧な蹂躙を繰り返していて。
「ぁっ……ぁっ……あんっ……」
声を我慢するのは至難の業だった。
こんなの、こんなの、ヤラシ過ぎです、先生……。
ていうか、郷野先生って……。
「凛」
「っ……せんせ……」
「顔、後ろに向けられるか」
欲張りな郷野は凛にキスまで強請ってきた。
唇で、指先で、全てでもって愛しい生徒の熱を確かめたがった。
「んぷ……っ、んむむッ……ぷは……ぁっ」
「……俺の名前、まだ呼べないか」
「ッ、ッ……そんなワガママいっぱい……オレ、きけません……っ」
今更だけど、郷野先生って。
結構……スケベ……なの?
結局、お泊まり二日目、凛は夜まで郷野に愛されっぱなしの一日を送った。
「……いただきます……」
夜八時、郷野が作ってくれた遅めの晩ご飯を食べ、後片付けを手伝おうとしたら「休んでていい」と言われて。
それなら宿題をしようとダイニングテーブルにプリントを広げてみたものの。
疲れて集中できない。
とりあえずボールペンは握りしめたものの、問題文を読むのも一苦労、解くのは無理そうだ。
「宿題、そんなに多いのか」
手早く食器洗いを済ませた郷野が真後ろにやってきて凛の手元を覗き込んだ。
「俺が代わりに解くか」
「えっ」
願ってもいない郷野の言葉に、凛は素直にぱあああっと顔を輝かせたものの、慌てて首を左右に振った。
すぐ傍らに片手を突いて、Vネックのシャツで鎖骨が覗いている体育教師をチラリと見上げ、ちょっとだけ唇を尖らせる。
「オレのこと、甘やかさないでください、郷野先生」
宿題から解放されるという、何とも魅力的な誘惑に打ち勝った生徒の頭を、郷野は愛おしげに撫でた。
「わっ?」
そうして軽々と抱き抱えてソファへ運ぶ。
「も、もうむりです、ほんと」
「俺より若いだろ」
「先生っ」
ダイニングテーブルから落ちたボールペンが隅の方へ転がっていく。
「先生ってば……」
ソファに仰向けに寝転がった郷野は真上に凛を乗せた。
「ワガママ言って悪かった、凛」
逞しい体の上で腹這いになった華奢な凛は何度も瞬きした。
長く筋張った五指に頬や髪をくすぐられると、ついクスクス笑った。
「明日、もう帰るんだな」
「そうですね。宿題しないと。あと、友達とも遊ぶので」
「そうか」
淋しいな。
ぽつりと言われた郷野の言葉に凛は少女めいた双眸を大きく見張らせた。
郷野は普段と変わらない顔つきで愛しい生徒の頭を撫で続けている。
学校でまた会えるのに。
郷野先生がそんなこと言うなんて意外で、何だろう、胸の奥がくすぐったくなるっていうか。
……これがいわゆる胸キュンですか?
「郷野先生」
「なんだ」
「オレ、もっと大きくなったら、一緒にお酒を飲んだり、一緒に旅行に行ったり……今より、もっと一緒にいられるよう、頑張ります」
それで、先生のワガママもなるべく叶えられるようにします……と、凛は心の中で付け足した。
自分のお腹の上でそう断言した凛に郷野は笑いかけた。
教室では決して見ることができない貴重な笑顔に凛は、正に、胸キュンする。
「そうだな。ずっとお前のものでいさせてくれ、凛」
「さようなら、先生」
「ああ、また、凛」
また学校で、教室で。
そしていずれ。
先生と生徒じゃなくなっても。
「先生……」
「凛、約束しただろ」
「……し、し、真一……先生っ」
「もうお前の先生じゃない」
「そんなことないです、先生はオレにとってずっと先生ですっ」
「……」
二人はいっしょ。
end
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