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「それで、弥一はこんな昼間に路地裏でどうしたんだ?」
腕を組んで、舘脇さんが首を傾げる。俺は少しだけ視界を揺らしながら
「人探し、です」
そう答えた。間違っていないし、第一本当の事なんて言っても信じてはもらえないだろう。
自分の失くした片割れを探しているだなんて、誰が信じるのだろうか。俺が何も知らない他人なら、何言ってんだこいつ、と思う。なぜだが、舘脇さんにはそう思われたくなかった。
「人探し」
「…はい」
「―――誰を探してるんだ?」
「え?あ、えっと………」
なんといえばいいのだろう。どんな形をしてるのか、自分でもわからないんだ。だけどおそらく、俺と同じ形を模しているはず。
「俺と、同じ顔の、人を」
搾り出した言葉はそれだった。同じ顔をした、人物。もしかしたら人の形を模していないかもしれないけれど、恐らく俺が今この形をとっているなら、相手も同じはずだ。
「双子なのか」
「――双子?」
双子、とはどういう意味だろうか。少しだけ首を傾げて、けどすぐに、あぁそうかと納得がいった。同じ顔、と言ったらそうなるか、と。人間たちは「双子」と言うのだった。
「そう、ですね」
「なんだ、自分の兄弟の事なのに曖昧だな?」
「――――すみません」
―――ごめんよ、ごめんよ。こうするしか、ないんだ―――
「………弥一?」
「っ、あ、すみません。ぼぅっと、してしまって………」
頭はくらくらしない。ただ少し、昔を思い出してしまっただけで。日傘の柄を持ち直し、舘脇さんにそう答えながら大丈夫ですと返した。
「倒れるなよ?」
「大丈夫です、よ?」
「なら、いいんだけどな。あぁ、そうだこれ」
スーツの内ポケットから銀色の小さいケースを取り出し、舘脇さんは「手、だして」と言うと、その中から一枚の小さな紙を取り出した。
「……これ、は?」
「俺の連絡先。会社すぐ近くだから、気分悪くなったり、何か困ったことがあったらくればいい」
「代表、取締、役……?」
「そ、俺、社長」
「しゃちょう…」
確か、百目鬼も社長だと言っていた気がする。社長ってことは偉い、地位の高い人間。
「――――なぁ、弥一。お前――」
舘脇さんが何かを言いかけた時、プルルとスーツのポケットで音が響いた。舘脇さんは舌打ちしながら音を出す何かを取り出して、ため息を吐く。これは確か、携帯電話、と言うのだっけとぼんやり見つめていると、舘脇さんが未だになり続ける携帯のボタンを押しながらポケットにしまう。音が途切れて、俺は首を傾げた。
「……それ、出なくてもいいんですか?」
「あぁ、くだらない用件だからな。大丈夫だ」
「…そう、ですか」
渡された紙の端をきゅっと握り、文字をじっと見つめる。俺は感じがあまり得意ではないから、代表取締役も百目鬼に聞くまで何と読むのかわからなかった。昔はもう少し、読み書きもできたはずなのに。
「それより、お前」
「?」
首を傾げながら舘脇さんを見上げると、いや、と言いよどむ。どうかしたのだろうかとじっと見つめると、「それ、落とすなよ」と俺がずっと握っている紙を指さした。
「はい」
もらった紙を着ている服のポケットにしまい、また両手で日傘の柄をぎゅっと持つ。少し、心臓の鼓動が速い。人間に関わるのは苦手なのに、舘脇さんは平気だ。
人間は好きだけど、昔みたいに純粋に「かかわる」事はもうできない。人を祟り、恨む気持ちは切り離してしまったから今はないけれど。
「……舘脇さん?」
「いや、なんでもない」
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