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   ◇◇◇ 「――――起きた?大丈夫?」 「……………………………………………………なんで」 「舘脇が、倒れたっていうから。頭痛くない?顔色はまだ、悪いみたいだけど」  ぼんやりと思考が戻ってくる感覚に、はっと息を吐きながらベッド脇に腰かけていた三日月を見上げた。見覚えのある部屋だ。どうやら舘脇と話していた時に気を失ったらしい。 「お前、は、」 「僕?僕はこういう役回りなんだよ。みんなの繋がりを守る、っていうか、性格なんだけどね」  困ったように笑い、三日月がその赤い髪を後ろ手に一本にまとめた。この間の様に頭の上に耳がぴょこんと出ている。 「お前、化け猫か?」 「え?あはは、ううん。僕は元々捨て猫なんだよ。猫又になって、今はもうなんだかわからない」 肩をすくめて、三日月が笑う。俺はとりあえず体を起こして、あたりを確認した。ヒビが入った窓ガラスはそのままだ。俺の事なんて、心配しなくてもかまわないのに。 「……声は、消えた?」 「あぁ、……でも、俺は弥一じゃない」 「……ねぇ、少しだけ、僕の話を聞いてくれる?」 「お前の?」 「そう。僕と君は、似てるんだよ。弥一くん」 ふふ、と笑い、三日月が小さくぽつりと言葉を紡いだ。 「僕ね、人を食べたんだよ。……名前をくれた、大好きだった人間を」 だからね、と続く。 「僕は、彼の分まで生きようと思ってるんだ。もちろん、生きる理由はそれだけじゃないけど、君は、本当にもう消えてしまいたいの?舘脇の事は、どうでもいい?人間の事も、もう気にしないの?」  窓をじっと見つめていた三日月の視線が動いて、俺の視線と衝突する。金色の瞳がまぶしくて、少しだけそらしてぎゅっと拳を握った。 「俺は、………あの小さなりんたろうが大好きだったんだ。読み書きも、名前も、たった一人で社に居た俺の初めての友達で、人間は好きだったから嬉しかった。さみしくなかったんだ。りんたろうといるのは楽しくて、でも、そのせいで殺された。俺が神で、……りんたろうは人間で、大人たちはりんたろうが俺をたぶらかしたんだと、言ってた」 目の前に落とされた首は、四肢は、胴体は、散らばった破片は。 「一瞬で、憎しみに染まったんだ。俺は、村人を全員殺して、それでも足りなくて、でも、これ以上誰も殺したりなんかしたくなくて、捨てたんだ」  優しい優しい、あの「弥一」を。 「………舘脇は、君の傍にいるって、言わなかった?」 「言ってた。でも、なんで、俺の所為で死んだのに、あんなひどい死に方したのに、恨まれもしないなんて」  その方が、つらいじゃないか。そうつぶやいて、うつむいた。あぁ、嫌だ。声も聞こえないし、苦しくもない。ただ、認めたくない気持ちはいまだにくすぶっている。 「あのね、弥一くん。舘脇はね、百目鬼に君が戻ってきたら一緒に居たいって、そう言ったんだよ。君の傍にいるなら、全部捨てるって。今の地位も、金も、誰に恨まれてもかまわないから、ずっと、死ぬまで傍に居たいって。会社の権利書持ってきたんだよ」 凄いね。そう言って笑う。俺は俯いていた顔をあげて、三日月を見つめた。 「捨てる……?」  愛してしまったから、仕方がない こんな、俺の傍にいるために?全部捨てるって?どうしてそんなことが出来るんだ。 「舘脇は、君を選ぶ以外の選択肢を持ってない。だから、あとは弥一くんが選ぶことだよ。君が選んだ答えを百目鬼が守ってくれるから」 「――――――お前なら」 「?」 「お前なら、選ぶのか?間違ってるって、思っても、」 「選ぶよ。僕は、一人が怖いもの。……なんて、それだけじゃ、ないんだけどね」 「俺は」  俺は、嬉しかった。転生でも、今生きて大人になっているりんたろうに会えて、嬉しかった。でも、やっぱり心にくすぶるものはあって、恨んでくれた方がましだと考える気持ちと、もっと一緒に居たいと感じる心が確かにある。 「時間はあるから、ゆっくり考えて」 そう言って立ち上がった三日月の、俺の視界に揺れた髪を思わず引っ張る。 「っ!ど、どうしたの?」 「もう少し、いてくれないか」 「―――……うん」

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