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天使のキス1
マンションに戻った月也は、その後、いつものように海棠と二人きりで休日を過ごした。
とは言え、昼間は一時停止だ。今日は国崎が来た分、少し長く起きていたが、その分、夜までの時間を少し長くした。そして起きている間は、二人でテレビを見たり、料理の練習をしたりと穏やかな一時を過ごした。
国崎の言葉が気になったが、何も変わってなどいない――月也は、そう思っていた。
それが間違いだと気づいたのは、その夜の事だった。
※
……何かがぶつかる、音がする。
ああ、と月也は納得した。また、自分はあの夢を見ている。
小さな子供になっている自分には、父親と母親はとても大きく見える。
そんな大きな二人に囲まれると、それだけで小さな月也の視界は塞がれてしまう。
そして、彼は見る。
月也を打つ為に、何度も振り上げられる手を。
自分達の不幸は彼のせいだと言う両親の、醜く歪んだ顔を……。
※
「……や、月也っ!」
声同様の必死さで揺すられ、目を開けて――心配そうに見下ろしてくる海棠に気付いた瞬間、月也は思わず飛び起きていた。
「どうしたんだ? まだ、眠ってる時間だろう?」
考える前に、言葉が出ていた。
刹那、海棠がビクリと表情を強張らせる。それを見て、月也は自分がかなり、きつい口調で問いつめてしまったことに気付いた。自己嫌悪に陥りながらも、何とか笑みを形造る。
「ごめんな? 大丈夫、怖い夢を見ただけだから……」
そう言った途端、海棠は音が聞こえそうなくらい大きく、首を横に振った。
その激しさに、少し驚く。と、悲しげに揺れる瞳をキッと上げて、海棠は口を開いた。
「月也は、悪くない……っ、約束を破った僕が、悪いから……」
謝らないで、と。
きっぱりと言い切る少年に、困惑する。
顔も、声も、変わらない。ロボットなのだ。変わる訳がない――その筈なのに、何だか海棠が別人に見えたのだ。
そんな月也を真っ直に見上げて、海棠が口を開く。
「どうして……月也は、月也を苛めるの?」
「えっ?」
「悪い事をしたのは僕なのに、どうして月也は、自分が悪いって言うの?」
静かな、静かな声。
けれど言われた内容に、そしてその言葉を紡ぐ少年の辛そうな表情 に、月也は何も言えなくなった。
「僕は、月也が好きなのに」
そんな彼の顔を、よく似た顔が覗き込んでくる。
「どうして、月也を苛めるのが……月也なの?」
自分と同じ形の唇が、悲しげに言葉を紡いで――近付いてきた。
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