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守護堕天使1

「はい、どうぞ」  差し出されたコーヒーを、無言で受け取る。  そして、口を付けずに月也は声の主である国崎を、それから部屋の中を見た。  向けられた顔は相変わらず整っていて、とても真夜中に叩き起こされたとは思えない(電話で叩き起こした本人が言うべきではないかもしれないが)それは、この部屋にも言える。  いきなり、タクシーで押しかけた月也を迎えたこの部屋は、きちんと整頓されていた。清潔な反面、隙がない。それはそのまま、男の印象に繋がる。 (……えっ?)  だから、それに気づいた時、月也は微かに眉を寄せた。  別に、変わった物ではない。どの家にもありそうな物だが、この部屋にあるという事に、奇妙な違和感を感じたのだ。 「それで? 一体、どうしたんですか?」  そんな彼に、国崎が声をかけてくる。  それにハッと我に返って、月也は顔を上げた。そしてキッと国崎を睨み付けて、 「あなたのせいです……っ」 「……そんな事は、解っていますよ」  きつく言い放った月也に動じる事なく、いや、いつもよりもむしろ愛想の良い笑みを浮かべながら、男は言葉を続けた。 「そうでなければ、まさかこんな夜中に、いきなり押しかけては来ないでしょうからね?」  ……声や口調は穏やかなのだが、付き合いの浅い月也にでも解る。  これは、完璧に怒っている。どうやらこの男は、怒り方まで屈折しているらしい。  知らず、頬を引きつらせた彼に国崎は、気にしないで下さいね、と言った。 「夜中にお喋りするのも、友情を深めるのに効果的なようですから」  どうやら、男は友情に対して、妙なこだわりがあるようだが――。  人間関係に不慣れ、かつ不器用な月也は残念ながら、男の友情論に反論する事が出来なかった。 (……薮蛇だった)  ため息と共に、月也は肩を落とした。  先程、国崎のせいだと口を滑らせたばっかりに、結局は夢で見た両親の事や、海棠にキスされた事まで全て、話す羽目になってしまったのだ。  いや、本来ならそこまで話す必要はなかったのだが、根本的に月也は嘘をつくのが下手だ。口数が少ないのは、そのせいである。喋らなければ良いという理屈なのだ。  そんな月也の耳に、ぽつりと呟きが落ちてくる。 「……知っていましたよ」  自己嫌悪に陥っていた月也は最初、その言葉の意味が掴めなかった。  そんな彼につ、と眼鏡の奥の双眸を細めて、国崎が言葉を続ける。 「貴方の両親の事は、知っていました……貴方を、虐待していたようですね。香一郎さんからこの仕事を依頼された時、貴方の事を調べましたから」

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