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楽園のドア2

 真っ白な海棠に、初めてを渡したかった気持ちはある。  ……けれど香一郎に愛され、海棠と出会うまで求められるままに体を拓いたのが、自分で。 (最初はあげられないけど、最後はあげるから)  そこまで考えて、月也はふと不安になった。  今は兄弟程度だが、これから先、人間である月也とロボットである海棠の年の差はもっと離れていく。  海棠を、手放す事は出来ない。しかし、自分はともかく年を取って中年に、そして老人になっていく月也を海棠は愛してくれるのだろうか? 「月也?」  その思いが顔に出たらしく、跨いでいた海棠が疑問の声を上げる。  それに今、考えた事を口にすると、軽く見開かれた目が笑みに細められた。 「月也、可愛い……ずっと、好きだよ。最後まで、月也の傍にいて……絶対に、置いていかない。月也を見送ったら壊れて、後を追いかけるからね」  誓うようにそう言うと、海棠は月也へと手を伸ばしてきた。  ……かと思うと不意に体勢を入れ替えて、驚く月也を真っ直に見下ろしながら真剣な表情で続けた。 「だから今は、現代(いま)の僕に集中して?」 ※  ……行為の後、床で眠っていた月也を目覚めさせたのは、国崎からの電話の着信音だった。 「……はい」 「おはようございます……と言っても、もう昼過ぎですがね?」  相変わらずの物言いに、思わず苦笑する。と、そんな月也に何を思ったのか。 「実は一つ、お断りしておかなければならない事がありまして」  不意にそんな風に切り出されて、月也は表情を引き締めた。  国崎からの告白は、今までが今までだけに正直、心臓に悪い。今度は一体、何だというのか。  だが、続けられた言葉は、月也の予想外のものだった。 「私は、貴方を『甥』とは思いませんが……あと、『仲間』だとも思いませんから」 「……は?」  突き放すような物言いに、思わず間の抜けた声を上げてしまう。  そう思われるのなら仕方ないが、理由は何だろうか。まあ、あれだけ迷惑をかけたのだからと言われれば、それまでだが。  しかし、国崎から言われた理由は、またしても月也の予想を超えたものだった。 「恋焦がれる相手と離れ離れになっている私が、両想いの相手を心から祝福出来る訳、ないでしょう?」  私はそこまで嘘をつける程、厚顔無恥ではありませんから。 「……あのっ」  何か言おうとする月也を制するように、ブツリと電話が切れた。  しばし呆然とスマートフォンを握り締めていた月也の横で、何かが動く気配がした。  ……いや、何かではなく、海棠なのだが。 「ん……」  射し込む光の中、しなやかな裸身を伸ばす海棠を見て、月也は自分もまた裸のままだということを思い出した。  何となく焦り、脱ぎ捨ててあったスウェットを着ようとする。  だが、そんな彼の腕が不意に取られ、月也は思わず息を呑んだ。 「……カイ?」 「もう、ずっと起きてていいんだよね?」  月也の腕を掴んだまま、海棠が尋ねてくる。いや、質問というより、まるで確認するように。  それに戸惑いながら頷くと、途端に満面の笑顔で彼を見上げながら、海棠は言った。 「じゃあ、まだ服、着ないで?」 「……えっ?」 「隠さないで、綺麗な月也をもっと見せて?」  言われた途端、柄にもなく顔が赤くなったのが解った。しかも困ったのは、海棠に言われて嬉しいと思ってしまう、自分の脳味噌の腐り具合だ。  ……確かにこれは、言えない。絶対に、間違いなく、馬鹿にされる。  刹那、脳裏に浮かんだ国崎の顔を振り払うように、スマートフォンをそっと床に置いて――答える代わりに、月也は少年の唇に口付けたのである。

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