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二人の形

海棠×月也 ※  彼氏が甘いものが苦手、というのは聞いた事があるけれど。食べ物全般、一切駄目というのはやはり少々、特殊かもしれない。 (まあ、仕方ないけどな)  そこで思考を中断して、月也はため息をついた。  彼の恋人は、高性能のロボットで。動力源は車と同じ、ガソリンで。  それは最初から解っているし、だからと言って自分の気持ちが変わる事はないのだけれど。  ……視線の先で踊る、リボンやハート。そして嬉々として店に集い、チョコレートを選ぶ女性陣。  これだけ街がバレンタインで賑わっているから、自分はこんな贅沢な事を考えるんだろうか? (良いな、なんて)  そもそも月也は男なので、チョコレートを買ったら悪目立ちしてしまうけれど。  再度、ため息をついて、沈みかけた考えを振り切って――歩き出そうとした月也は、けれど視線の先に見つけたものに驚いて足を止めた。 「……カイ?」  確かに、ここは駅からの帰り道で。このアーケードは、海棠とも何回か買い物に来ていたが。  ……何故、海棠があんなに真剣な顔をして、チョコレートを選んでいるのだろうか?  名前を呼ばれたのに気付いたのか、少年が顔を上げる。 「月也……!」  そして自分と同じ顔に、眩しいばかりの笑みを浮かべて、海棠は彼の名前を呼んだ。 「ねぇ、月也はどれがいい?」  お小遣いの額を彼にこっそり打ち明けて(そもそも、月也が渡しているが)海棠が尋ねてくる。  何でも、テレビでバレンタインの事を知り、自分に買おうとしたのはいいが――あまりにもたくさんあるので、選べなくなったと言うのだ。 「……カイ? 今日は、女性が男性にチョコレートを渡す日だぞ?」 「だって、僕は食べられないから」  悩んでいた事をあっさり言われて、月也は内心、ドキリとした。  そんな彼の様子には気付かず、楽しそうに笑いながら海棠は言葉を続けた。 「それに、好きな人に告白する日なんでしょう? だったら、男とか女とか関係無いし……それなら僕は、月也が美味しそうにお菓子を食べるのを、見た方がいいな」  無邪気な言葉に、月也は軽く目を見張った。  ……確かに、形に拘る必要なんてない。  大切なものは、もっと他にあるのだから。 「……寒いから、ホットチョコレートとか飲みたいかな」 「ホット? チョコが、暖かいの?」  彼の提案に、海棠が首を傾げる。 「んー……暖かいって言うか、温める?」  そんな相手の質問に、我知らず笑顔で答えながら。  チョコレートのようなお菓子を常備していない為、材料を買うのに、月也は海棠を連れて店を後にした。

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