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『初めて』冒険記

海棠×月也 ※  バレンタインの時は悩み過ぎて結局、自分では選べなかったけど。  ……月也と二人でチョコは勿論、マシュマロや生クリームを買って、ホットチョコレートを作ったのは楽しかったけど。 (今日こそは)  三月十四日。男性から、気持ちを伝える日――それならば、自分が頑張らなければ。  海棠は意気揚々と、マンションを出たのだが――数時間後。アーケードから少し離れた場所にある公園で。彼はベンチに腰掛けて、項垂れていた。 「……どうしよう」  先月程ではないが、店にはたくさんクッキーやキャンディ、マシュマロが売られている。  その中から、と思ったのだが、どうしても一つを選ぶことが出来ず。少し、落ち着こうとこの公園に来たのだった。 「月也に、ピッタリの……プレゼントって、そういうものだよね?」  誰にともなく呟いて、何とか考えをまとめようと腕を組んだ。 (……んっ?)  そこでふと、気配を感じて視線を巡らせ――海棠は大きく、目を見張った。 「犬……?」  テレビで見たことのある動物が、目の前にいる。  白い毛並みと、ビー玉みたいに丸い目。その首には首輪の代わりか、鮮やかな青いハンカチが結ばれている。 「……こんにちは?」  初めて間近で見る犬に、挨拶をしてみる。  と、そんな彼に対して――犬は不意に踵を返し、スタスタと歩き出した。 (えっ……?)  それから数歩、歩いたところでピタリと止まり。ついて来い、と言うように振り向いて、海棠を見た。  数歩歩いては、止まり。海棠がついて来ている事を確かめては、また歩き出す。 (どこに行くんだろう?)  首を傾げながらも、何故かついて行かなければいけない気がして後を追う。  そして、しばらくテクテクと歩いた頃――案内人は慣れた様子で、一軒の店の中へと入っていった。 「おや、マツ……またお客さんを、連れてきてくれたのかい?」  中にいたのは、一人の老婆だった。そして、労うように犬の――マツの頭を撫で、苦笑しながら謝ってきた。 「ごめんなさいね、お嬢……あら、お兄ちゃんかい?」 「いいえ……ええ、はい」  無理に連れて来られた訳ではないので、女性という勘違いだけ訂正してそう答える。それよりも海棠は、さっきの老婆の言葉の方が気になっていた。 (『また』って事は……)  それでは海棠を連れて来たのは、飼い主の手伝いの為という事か。  確かにアーケードからは離れているし、こうして連れて来られなければ自分も、この店を見つけられなかった。現に客は、自分一人しかいない。  そこまで考えて、海棠は何気なく店に並ぶガラスケースに目を向けた。  そして、ある物を見つけて――思わず「あ」と声を上げた。 「あの……これは?」  彼の言葉に少し不思議そうな顔をした後、老婆は「金平糖よ」と答えてくれた。 「今の子はあんまり食べないかしらね? 雛祭りの時とか」  ニコニコと笑う老婆の言葉を聞きながらも、海棠はそのお菓子から目が離せなくなった。  色彩々のお菓子。小さくて、可愛くて。まるで、星みたいだ。 (……見つけた)  月也にあげる物を。満天の星に囲まれた月のように、綺麗な綺麗な彼にピッタリの物を。 「これ……このコンペイトウ、下さいっ」  目を輝かせ、教えて貰ったばかりのお菓子を指差しながら、老婆に言う。そして、老婆の足元に伏せている恩人に目をやって、 「ありがとう!」  海棠は、満面の笑顔でお礼を言った。

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