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メロディ

海棠×月也 ※  料理を作ったり、一緒に買い物に出かける時。海棠は、歌を口ずさむようになった。  聞いた事があったり、なかったり。ただ一つ言えるのは、それがどれも上手だと言うことだ。 「僕は、機械だから」  だから一度、聞いた曲なら忠実に再現出来るのだと。自慢するのではなく、いや、むしろ淋しそうに。  そう言っていた少年は、けれどある日を境に熱心に、同じ歌を口にするようになった。  ……同じ歌、と言うと少し、語弊があるかもしれない。  その歌には歌詞がなく。  柔らかい響きはけれど、いつ聞いても微妙に違うからだ。 「カイ……それ、何の歌なんだ?」  尋ねた月也に、海棠が笑う。あの時とはまるで違う、眩しい笑顔で。 「歌じゃないよ。降っている雨の音! 前に月也、聞いていると眠くなるって言ってたでしょ?」  驚いて目を見張る月也に、でも、と少年が言葉を続ける。 「同じ音ってないんだ。降り方とか、どこに落ちてくるかとか。聞く度に違うんだよ?」  真面目な顔で、熱心に力説する相手に。  見開いていた目を、笑みに細めて――月也は海棠の肩に寄り添って、目を閉じた。 「……聞かせて?」  愛しい君が聞いている音を――どうか、俺にも感じさせて?  ……月也の言葉に微笑んで、海棠は柔らかい声で歌い出した。

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