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幸せ基準

海棠×月也 ※  ロボットである海棠にも、五感はある。  見たり聞いたり、感じたり。  それ自体は、人間である月也とほとんど同じようだが――そこで、人間と少し違うのは。 「再現したり、情報から組み立てる事は……うん、出来る。得意だと思う」  生真面目な表情(かお)で頷く海棠の前には、夕食の後に出された紅茶がある。  ……最初は、月也が自分で淹れるのを見て。  やがて、海棠は月也の代わりに食後の飲み物を淹れてくれるようになった。  彼の出してくれる飲み物はいつも、本当に美味しいのだが――ある日、ふと気付いたのだ。  美味しい味を覚えて、毎日、全く同じお茶を出しているという訳ではない。  少し温めだったり、むしろ熱かったり。あるいは濃かったり、ミルクや砂糖が入っていたり。それがどれも、その時、月也が美味しいと感じる温度や茶葉だったり、種類だったりするのだ。 「最初は、月也の真似だったんだけど……見てて、体調とかによって人間は欲しい味や種類が変わるんだって、気付いたんだ」  そこまで言って、海棠は申し訳なさそうに肩を落とした。 「ただ、僕は人間の味覚ってよく解らないから……ごめん。最初の頃は月也で少し、実験しちゃった」  ……そうして、月也の様子を観察して。  その時の気温や彼の体調から、適している飲み物を出しているんだと海棠は言った。 「僕を作った人達の事は、解らないけど……見たり、温度を感じたりさせてくれて、本当に良かった」  だって、おかげで月也にお茶やジュースを淹れたり、ご飯を作ったり出来るもの。  そう話を締め括って――ひどく嬉しそうに、海棠は笑った。  ……どこからか、人間そっくりに動くロボットが送られてくる。  それは都市伝説、つまりはありえない事だと言われているけれど。  そんな伝説の存在は――今日も月也の前で、幸せそうに笑っている。

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