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第8話

「主人公のモデルなら、目の前におるよ。その後はこんな感じで過ごしてる」 「え······」 「失恋して死にそうな女の子。それを見つけた男が助けてあげて、そこから同居生活が始まる。女の子は徐々に明るくなったけど、失恋した相手を忘れることが出来ずに、男を失恋相手に重ねていた。」 思い出すと辛くなる。だから文字に一度起こして出来事を整理することで、忘れようとした。 「そんなある日、女の子を振った奴が現れる。女の子は酷く動揺して、でもその中で失恋相手が何よりも好きやって気付いた。男は女の子に惹かれていたが、女の子の幸せを願って元の男に返してあげた。」 そう、それが全て。 たったそれだけの話。その筈やったのに、胸の中で存在する気持ちは、その先も求めている。 「健人さん」 「今は楽しく生きてるよ。その子に囚われないように」 いつの間にか泣きそうになっていた。 焦って将斗に背中を向け、目元を服の袖で拭う。 「健人さん、それ、嘘でしょ?」 「······それって、どのこと?物語の話?嘘やないよ」 「囚われてるよ、その人に。だから···本、書いたんでしょ?」 腕を掴まれて、無理矢理体ごと将斗の方に向かされた。 「俺、その先の話をずっと想像してた。もしこの男の人が本当にいたのなら、新しい良い人がその人の前に現れたらいいなって」 「そんなん···現れても恋愛なんかしやんよ。やって主人公は恋愛することに疲れてんもん」 「······ううん。人ってね、何度でも人を好きになれるんだよ」 手を握られて、優しく笑う将斗。 なんやその笑顔。天使みたいやな。 「その先の想像は、俺のものだから、誰にも邪魔させないよ。」 「ふはっ、そりゃ俺も邪魔できやんわ!」 「そう!だからこれから先は俺の想像通りに進むように頑張るね」 「······何を?」 「秘密!···っあー!!腹減ったー!!」 場所、知らんくせに俺の手を握ったまま俺より先を歩く。 「あ!健人さん!どっち?」 「···そこ、右曲がって」 「はーい!」 それがめっちゃ心地いい。 人を引っ張るんやなくて、人に引っ張られるのが。なんか、心がすごい楽な感じ。 「そこ。そこのお店」 「ついた!入りますよー」 「うん」 個室に通されて、席に座る。 前におる男は、いつ見てもイケメンや。 「飲み物何にします?俺は烏龍茶!」 「俺もそうする。」 「······ねえねえ健人さん。何か悩んでます?さっきの話以外で。」 烏龍茶を頼むと将斗が急にそんなことを言い出した。何でこいつには全部バレてまうんやろ。ただの俺のファンやのに。 「···次書く話のこと、悩んでる。担当さんには俺らしくないって。月末までにほんまに書きたいって思わんのやったら書かないでって。」 「作家さんの世界はよくわからないけど、そういう事も言われるんですね。」 「いや、わからんよ。俺も初めて言われた。···やから、どうしようかなって。······別に、今までも書きたいって思ってたわけやないから」 「ええ!?なのにあんな素晴らしい話を書いてたんですか!?」 ほんまにびっくりしてる将斗。うんうんって頷いて、運ばれてきた烏龍茶を手に取る。 「お茶やけど、乾杯する?」 「します!」 グラスをコツンと合わせる。 「何に乾杯ですか?」 「え、わからんけど乾杯!」 何でこんなに素直に話してんのやろ。 不思議で不思議で、たまらん。

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