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第43話「初めての匡」

 (たすく)と燈は船長室のデイルームからベッドルームへ移動した。豪華なダブルベッドが存在感を放っている。 「ベッド凄いね。…でも、多分、汚さないから安心してね。」  燈はスウェットの上下を脱ぎ、白い裸体を晒していった。 「どういう事?」  素直な疑問を匡は口にした。 「俺は滅多に射精しないし、匡さんが中に出した物を、俺は零したりしないから…。」  燈は脱ぎ終わるとベッドに腰掛け、匡に向かって両手を拡げた。 「俺も全部脱いだ方がいい…?」  匡が問うと、燈は首を傾げ、過去を振り返った。 「そう言えば、裸の人とした事ないかも。…折角だから、全部脱いでもらっていい?」 「いいよ。」  匡が全身を晒す。下着が取り払われると、他よりも白い肌が現れた。 「日焼けだったんだ…。」 「うん、本当は全体的に、もっと白いんだよ。」  匡が燈の目の前に立った。 「ねぇ、口でした方がいい…?」  匡の股間のモノを見て、固さも大きさも十分そうだが、燈は取り敢えず訊いてみた。 「え?…あ、じゃあ、少しだけ…。本当に少しだけでいいから。…最近、というか、そういうの経験少なくてさ…。」 「そうなんだ…。じゃあ、出さない程度にするね…。」  匡のモノが燈の口の中に含まれる。鈴口や裏筋を熱い舌で刺激されると、それだけで達してしまいそうな感覚になった。 ――これじゃ、我慢大会だ…。  匡は意識を逸らすように、コンパスデッキやレーダーマストにあるアンテナの種類を思い浮かべた。続いてナビゲーション・ブリッジにある、機器名称を思い浮かべていっていると、不意に解放された。 「もう、やめておこうか…?俺もこれ、そんなに得意じゃないんだ。」  匡は噛み締めていた唇も解放し、燈に頷いてみせた。 「じゃあ、ベッドに寝て。俺が上に乗るから…。何だったら、目を瞑って綺麗な女の人でも想像してたらいいから…。」  十三歳の燈に誘導され、匡は複雑な心境に陥りながら、ベッドに仰向けに横たわった。  この年でどれくらい性的な経験をしているのだろうか、と邪推してしまう。 「病気とかないから安心してね。…俺は病気にならないんだ。風邪すらも引いた事ないんだよ。」 「そうなんだ。凄いね…。」  燈は匡に気を遣ってか、背中を向けた形で匡の男根を後孔に宛がった。 「燈君、準備してないのに…!」 「大丈夫だよ…。」  燈は腰を落とす瞬間、ウィル・バーネットという、今は亡き黒人青年の事をフラッシュバックさせたが、全てを奥まで呑み込むと、燈の全身は待ち望んでいた感覚に包まれ、あっという間に快楽に支配されてしまった。  燈の中に挿入(はい)った衝撃で、匡は思わず吐息を洩らしてしまった。それを恥ずかしいと思った彼だったが、燈が上下に動き始めると、燈の中の熱くうねる感覚に全てを持っていかれた。 「あ、…匡さ…ん、声、出してもいい…?」 「いいよ…。」 「本当に…?…良かった。声が…出そうだったんだ…。」  以前、誰かに抱かれる時に、声を出すなと言われたのだろうか、と勘ぐってしまった匡だったが、燈の動きと洩れ出した嬌声に再び意識を持っていかれた。  それから間もなくして、燈の中に匡は脈打たせながら熱い液を放出する。 「あ…。」  それを感じた燈は動きを止めた。 「ご免!早かったよね…!」  思わず反省してしまった匡は、燈の背に謝った。 「いいんだよ。早く終わった方が、いい事なんだから…。」  燈の言葉に、本来の目的を思い出した匡は、名残り惜しそうに燈の中から自身を抜き出した。しかし、それは射精したにも拘わらず、一向に萎える気配がない。  困惑していると、振り返った燈に気付かれた。 「あ、後は自分でするから…。」  燈と距離を取ろうとする匡に、彼は抱き着いて首筋にキスをした。 「いいよ。まだ気持ちいいの続いてるから、また()れてよ…。」  理性が飛んだようになった匡は、燈の細い体を押し倒した。 「ご免ね…。」  一旦、謝って、匡は正常位で燈の中に再び侵入する。 「…沢山、出していいから…ね…。」  燈が囁くと、匡は全てのしがらみを忘れて、穿った先の虜囚となった。  それから何度か繋がった後、匡から解放された燈は、訪れた賢者タイムに、こっそりと溜息を吐いた。 「燈君は…出してないけど、いいの?」 「うん。…出せない訳じゃないけど、それよりも気持ちいいって感じてるから…。」  技術不足だと感じているような匡をフォローして、燈は着てきた衣類を着込んだ。 「匡さん、有難う。…部屋に帰るね。」  燈が扉に手を掛けたので、匡も慌ててパジャマを着て見送る準備をした。 「燈君、あのさ…。」  匡は純粋な気持ちで燈にキスがしたいと思ったが、口に出すのを躊躇う。 「…おやすみ。」  言葉は結局すり替えられ、燈は匡と同じ言葉を返して部屋を出て行った。  その後、冷静になった匡は、罪の意識に苛まれていき、眠れない夜を過ごした。  翌日、燈は匡が目を合わせてくれない事に気付いた。近付こうとすると、彼は忙しさを醸し出して足早に去ってしまう。 ――もしかして、昨日の事で避けられてる?  何度か避けられてる感覚を味わった後、燈は匡を掴まえる事を決意した。カイルが以前してくれたように、時間を空けない内に話し合った方がいいと感じたからだ。  匡の後をこっそり付けた燈は、彼が一人になり落ち着くのを待った。  それに気付かない匡は、一人で居住区最上階のナビゲーション・ブリッジ・デッキからAデッキまで降りて行くと、通路の中央付近にあるケーブル・トランクという小さな部屋に入った。  そこには上から下まで貫通した大きなダクトが二つ並んでおり、そのダクトに取り付くように分電盤が二つと、その真横にクレーン用のスターターが設置されている為、かなり狭い。  一人きりで仕事モードになっていると、突如、背後で扉が開き、燈が急に入ってきたので、匡は心臓が止まりそうになった。 「あ、燈君。…どうしたの?」  密閉された狭い空間で、逃げ場を無くした匡は狼狽えた。そんな匡を燈は真っ直ぐ見据える。 「匡さんが、俺の事、避けてるみたいだったから、ちょっと話したくて…。」 「そんなつもりは…。」  匡は否定しようとしたが、見透かされているようなので口籠った。そして観念する。 「昨日の事、後ろめたくなってさ…。無意識のうちに避けてたのかな、ご免。」  匡に謝られ、燈は慌てて首を横に振った。 「軽蔑されたって仕方ない事だから。こっちこそご免なさい。…匡さんに嫌な思いをさせてしまって。」 「嫌っていうか、…罪悪感で一杯になってしまって…。軽蔑とかはしてない。ただ、君の事は弟のように思っていたかったから…。」  弟という言葉に、燈はカイルを連想して、それを直ぐに打ち消した。 「もう、弟って思えない?」 「どうかな?…こういう事が、またあるんだったら、もう…そうは思えないよね?」 「ご免なさい…。」 「謝らないでよ。君の特殊な遺伝子の所為だって、理解は出来てるんだ。」  燈と普通に話せている事に、匡の緊張が和らいでいく。しかし昨夜の情交を思い出してみると、罪悪感がまた疼きだした。 「…あ、あのさ、体、大丈夫だった?俺のデカい方だから…って、自慢とかじゃないからね!…体が痛いとか、ない?」  匡は心から華奢な少年の体を心配する。 「全然、大丈夫だよ。あれくらい、普通だし。」  燈は匡の罪悪感を拭おうとして、平気な自分をアピールして見せたのだが、彼の自尊心を傷付けてしまったようだった。 「ああ、…なら、安心したよ…。」  匡は引き攣った笑顔を見せる。  そんな匡の心中に気付かなかった燈は、匡とは人種が違い、背格好も全く似ていない筈のウィル・バーネットという青年と印象が重なってしまうのを不思議に思っていた。 「匡さん、優しいよね。…日本でも一緒に居られるの?」 「いや、君は(かえで)伯母さんと一緒に暮らすから。…でも、会えない距離じゃないよ。」 「そう。そしたら、また発情した時は…匡さんを頼ってもいい?」  その言葉に、もう二度と燈との情交はないかも知れないと、昨夜思い至っていた匡は意表を突かれた。 「え?…あ、ああ、そうなってしまたら…そうだね。…複数の人とするのは良くない事だから。…うん。」 「有難う。匡さんなら、カイルも許してくれると思う…。」  匡は目の前の魅惑的な笑顔に、くらりと来てしまう。  燈は耳を澄まして、匡の高まっていく鼓動を確認した。 ――俺、また、発情しちゃう…?  燈はその感覚を待ってみたが、それが訪れる事はないようだった。  匡の顔は紅く、鼓動も高鳴っているのに、不思議な感覚だと燈は感じて、改めて匡の顔を見つめた。 「な、何?」 「何でもないよ。じゃあね、匡さん。お仕事の邪魔してご免なさい。」  匡の奇妙な緊張感を可笑しく思いながら、燈は外へ出た。  一人になり、匡は大きく息を吐き出して脱力した。 ――いつから俺は、言いたい事が言えなくなってしまったのかな…。  匡は周囲の人間から、物怖じせず、何でも思った事を口にしてしまう性格だとよく言われるのだが、ある時からそれは、一定のシチュエーションでのみ、失われてしまうようになった。  そのシチュエーションとは恋愛における時であり、切っ掛けは、高校時代に初めて付き合った彼女が、別れの際に匡の言動を非難したからであったが、本人的には、その自覚は薄いようだった。 ――燈君は年齢よりは大人びて見えるけど、でも年齢的に中学生だから、俺もこんな…中学生みたいにドキドキしてしまってるんだろうか…?  熱くなった顔を右手で扇いで風を送ると、仕事に意識を切り換える努力をした。  無意識に分電盤を開け、ずらりと並ぶブレーカーを眺めた匡は、ふと首を傾げた。 ――俺は何しに此処に来たんだっけ…?  暫く匡はその中に留まった。

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