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第6話「S4の発情」

 S4(エスフォー)に異変が起きて、三十分が経とうとしていた。彼に起きた異変を監視者に悟らせない為に、ウィル・バーネットは監視カメラの死角に移動して彼を慰めていた。 「きっと、大丈夫だから。直ぐ元に戻るよ。」  扇情的になり、キスを求めるようなS4の赤い唇を掠めるようにウィルは唇を落とし、それ以上の行為に及ばないように自身を戒めた。  やがてネスビットとIT担当のビーズリーが入って来ると、ウィルからS4を引き剥がした。 「何をするつもりです?」  入って来た二人の組み合わせを怪訝に思ったウィルは、S4を取り戻そうとした。しかし、鳩尾に一発喰らうという、予想していなかった痛みに耐え切れず彼は、膝から落ちた。 「何って、調べるんだよ。S4が発情しているみたいだからさ…。」  ウィルはネスビットが正規の検査に見せかけて、S4の体を弄ぼうとしているのだと察する。 「…ダイアナが監視してるのに…ですか?」 「ダイアナは今、機能していない。俺の仕込んだマルウェアでね!予想では一時間十七分は眠っていてくれる筈だよ。」  ビーズリーが得意気に説明する。その間にネスビットはS4から衣類を剥ぎ取っていった。 「やめて下さい!…グレイソンさんにバレたら殺されますよ!」 「その時はおまえも同罪だけどな。取り敢えず、おまえは外に出てくれる?」  ウィルはネスビットに蹴り出される形で、部屋を追い出された。それと入れ違いに別の研究員の男が入って来る。その男は手際よく部屋をロックした。 「S4が発情したって?」 「ああ、これから確かめるところさ。…時間が短いから、デニス、おまえは見学だ。」 「ネスビット、それはないだろう?」  デニスと呼ばれた男は、率先してS4を背後から抱き、首筋に舌を這わせた。S4は身悶え、一人で立っていられないようだった。 「いい反応だな…。だが、俺は男の経験はないからな。今日は俺が見学でいいよ。」  ビーズリーが身を引いて、近くのソファに座った。 「功労者なのに、いいのか?」  折角連れて来たのに、とネスビットは肩を竦めてみせた。それからデニスに弄られる裸のS4に視線を移す。 「この間からT-CCタイプを試してるんだが、グレイソンの欲望を叶えている個体なだけに、いい具合で癖になるんだ。」  T-CCタイプとは培養液から造り出したトロイベースの生命体の事で、今のS4が青年期に達した外見をしている量産品だった。  それをデニスはグレイソンの目を盗んで幾度か性行為に及んでいるという。 「…やめて下さい。」  小さくS4は抵抗をみせる。 「そんな事言うんだ?…体は違うだろう?もっと、触って欲しいんじゃないのか?」  デニスが背後から執拗に乳首を弄り出すと、S4は体をびくつかせながら細い下肢を開いていった。その中心にネスビットが手で刺激を与え始める。  しかし、そこは硬さを増そうとしない。 「勃起しないな。…第二次性徴前でも何らかの反応がある筈なんだけど。」  半信半疑になっているネスビットに対し、デニスは後孔を弄りながら興奮していた。 「いや、こっちは凄いぞ。濡れてる、女みたいに…!やはり発情してるんだよ!」  デニスはS4を四つん這いにさせると、ネスビットにもその孔を堪能させた。普通なら濡れない器官の分泌液を、指に絡めながら出し入れすると、S4から嬌声が上がった。 「そこ…!あ、何…?…あっ、あぁ…。」 「気持ちいいか?」  デニスが問うと、抵抗をやめたS4は何度も頷いた。 「この分泌液は不思議だな。芳香すら感じる。これは試さないと損だ。」  ネスビットが絡めた透明の粘液の匂いを嗅ぎ、誘われるように今度は直接舌で後孔を味わった。 「甘いな…。」  後ろを弄られて、漸くS4は勃起したようだった。 「前より後ろの方がいいんだな?」  ネスビットが場所を確かめながらS4の中を指で擦ると、顕著に快感を示してくる。 「あ…そこ、いい…!」  その姿勢にそそられたのか、ソファで見学していたビーズリーが近付いてきた。 「気が変わった。功労者の特権で、最初に突っ込ませて貰うよ。」  ビーズリーは二人に場所を開けさせると、臀部を突き出して悶えるS4を背後から捉え、一気に欲望で貫いて中を堪能する。 「…初めてのケツで、こうなのかよ?」 「いやいや…。自分のケツで考えてみろよ。普通はそうならないさ。…そいつはうちの商品だから、そうなるのさ。」  唯一のトロイベースの経験者であるデニスが、得意気に説明する。 「…凄く絡みついて来るし、女よりも熱い。…これは、長く持たない!」  五分足らずでS4の中に射精したビーズリーは、呆然となっていた。 「気にするなよ、時間もない事だしな。…よし、次は俺が頂こう。」  ネスビットが体位を変えないまま、S4に欲望を突き立てた。S4は快感に打ち震えるようにしながら、本能的に射精を促してくる。 「…こりゃあ、全員最短記録を打ち出すんじゃないか?」  デニスが態と時計をネスビットにちらつかせる。 「人権のある女相手じゃないからな。…好きなタイミングで出させて貰うよ。」  ひと際大きく腰をグラインドさせたネスビットが、S4の最奥へ吐精した。 「S4、奥に出されるの、気持ちいい?」 「気持ち…いい…です。」 「じゃあ、俺のも注いであげるよ。」  デニスはS4を正面に向かせて挿入すると、下肢を抱え上げて腰を振り始めた。  そんな最中に、ビーズリーの時計がアラームを鳴らした。 「おい、まずいぞ!ダイアナの自己修復が終わりそうだ。…彼女が再起動するまで後十分ぐらいしかない!」  ビーズリーはスマートウォッチにダイアナの状況が分かるように、アラーム機能を設定していたようだった。 「嘘だろ?…まだ一時間経っていないじゃないか!…おい、デニス!」 「分かってる!…今、イクから!…う!」  デニスはS4を床に倒した状態で、彼の中に射精した。  余韻に浸る間もなく、三人の男達は部屋のロックを解除し、今まで廊下に立ち尽くしていたウィルを部屋へ引き入れた。 「予定より早くダイアナが復活する。…S4に服を着させて整えておけ。それ以外のケアは必要ない。Tシリーズは精液を瞬時に吸い尽くすからな。」  指示を出すネスビットを無視して、ウィルは床に横たわるS4に駆け寄った。抱き上げるとバスルームへ向かう。  その背中にネスビットが強めに声を投げる。 「この事はグレイソンさんだけでなく、ザナージにも言うなよ!あいつはS4の母親面してるから、少し厄介なんだ。」  ウィルは少しだけ振り向いて、三人を睨みつけた。 「このまま報告しないつもりなんですか?」 「するよ。但し、今日じゃない。」  三人が出て行くのを確認する前に、ウィルはバスルームへ入った。シャワーを出し始めると、ウィルは泣き始める。 「どうしてあなたが泣くんですか?ウィル…。」 「ご免!君を守ってあげられなかった!」  S4の指がウィルの涙を拭う。 「自分の身は自分で守らないといけないって、シルビーが言ってました。先程の件は僕が抵抗出来なかったから起こったんです。ウィルに責任はありません。」  自分よりも大人であるウィルの涙を見ながら、S4は熱かった体が徐々に覚めていくのを感じていた。ずっと恐怖に感じていた性徴による変化が、実際に経験してしまった事で、ある程度の覚悟が備わった。  もう元に戻れないのだと、S4は自身に起こった悲劇を受け止める。 「…ダイアナ!…これは…。」  S4の体を洗っていたウィルが突如、蟀谷(こめかみ)を押さえて眉間に皺を寄せた。自己修復を終えて再起動したダイアナが、直接ウィルに骨伝導で話し掛けてきたようだった。 意を決して真実を話そうとしたウィルからシャワーを奪い、S4が注意を引く形で無言で制止する。 「特に変わった事は何もありません。…測定はこれからです。」  監視カメラに向かってS4が話すと、ウィルはダイアナとの通信から解放された。 「どうして…?」  ダイアナに報告すれば、ネスビット達に制裁を受けさせられたかもしれなかった。しかし、それは同時にグレイソンに朗報を(もたら)す事にもなるのだ。 「彼女を信じているからです。」  シャワーの音に掻き消されそうな小声でS4は答えた。その瞳には屈しない力強さが湛えられているようだった。  ウィルはS4の言う彼女がシルビーである事を理解すると、グレイソンを呼び寄せる事の方が、彼女の計画の妨げになるのだと悟った。  ウィルは頷くと、今回の件の黙秘を了承した。

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