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第11話「ウィルの悲劇」
とある孤島に建てられた白い病院のような四角い建物は、半分を研究室区域、もう半分を居住区域としている。
白の棟にいる研究員は五人で、大掛かりなコンピューターを管理する人員が三人、他は医療を担当する女性が二人と、雑用を担当する老夫婦が雇われていた。
五人しかいない研究員達の中では、暗黙のヒエラルキーが存在していた。三十八歳になる自称CTO(最高技術責任者)のネスビットを頂点に、後はこの島に配属された順にシルビー、デニス、マークル、ウィルと順位付けされているようだった。
唯一の二十代であるウィル・バーネットは、必然的に一番下の扱いを受け、彼もまた、それを否応なしに受け入れた。
しかし、その先輩達に強いられる事が命に係わるのならば、全力で拒否しなければならない。
それが、今、その時だった。――
ウィルは媚薬を盛られた状態で、デニスとマークルに両脇から担がれるようにして、居住区のT-S004とプレートの貼られた扉の前まで連れて来られた。
デニスは乱暴に部屋の中にウィルを押し入れると、後は一人で頑張れと、マークルに言い残して去って行った。マークルは肩を竦めて自分も中へ入った。
勢いよく床に膝を着いたウィルは、部屋に入るなり、S4に近付くなと叫んだ。対してマークルはS4を呼ぶ。
「どうしたんですか?」
微妙な距離間でS4が問うと、マークルが手招きしながら説明する。
「バーネットが具合悪くなっちゃたんだ。S4は看病できるかい?」
S4は頷くと、駆け寄って来る。
「駄目だ!…僕は薬物でおかしくなってる。君に近付かれたら…君に何をするか分からない!」
動きを止めたS4だったが、ウィルから漂う雄の匂いに鼻腔をくすぐられ、体を熱くさせていった。
遺伝子を操作されているS4の嗅覚は、特有のフェロモンを嗅ぎ分ける事が出来た。そして、それはS4に発情を促す。
「あのね、S4。ウィルに何もさせないで、君が一方的にやりたいようにやれば、ダイアナはウィルを攻撃しない筈だよ。」
「やりたいようにって…。」
戸惑うS4にマークルが後押しする。
「発情しちゃったんだろう?ウィルも同じさ。…このままじゃ二人とも解放されないよ。」
「ダイアナが見てる…のに…?」
「大丈夫だって。」
「攻撃されないって確証はないんだ!」
ウィルは叫ぶと、再び荒々しくマークルに襲い掛かった。マークルは悲鳴を上げて逃げたが、ベッドのある位置まで追い詰められてウィルにそこへ組み敷かれた。
「助けて、S4!」
マークルに助けを求められ、S4は思わずウィルを背後から抱き締めた。
「やめて、ウィル!」
胸の高鳴りを抑えきれずにウィルの顔に手を回すと、彼の顔を自分の方へ向け、S4は激しくキスをした。それに抵抗出来ずにウィルは口を開けてS4の舌を迎え入れる。
その隙にマークルはウィルの下から逃げ出した。
ウィルとベッドの上で向き合った形になったS4は、衣類を全て脱ぎ去り、ウィルのベルトを外してズボンの前を開いた。そこから窮屈そうにしていたものを取り出すと、愛おしそうに舌を這わせる。
「並の巨根 じゃないな。…入りそうにないなら無理するなよ。」
横で好奇の目の見物人と化したマークルは、二人の行為に口を出して喜んだ。
「はぁ…S…4…もう、出る!」
S4の愛撫に耐え切れず濃い精子を吹き出してしまったウィルだったが、てらつくそこは萎える事なく更に力強く脈打っている。S4はうっとりと見入り、流れる液体を丁寧に嘗め取っていった。
ここまでして、ダイアナの制裁は行われないようだった。
「ウィルの…入れますね…。」
我慢出来なくなったS4は細い体でウィルの上に跨ると、黒くそそり立つものの上に腰をゆっくりと落としていった。桁外れな質量を難なく呑み込んでいく。
「入った!…入っちゃったね!」
マークルは横で興奮している。
S4は上下に動き、ウィルの射精を再び促した。
「ん…!あ…あぁッ…好きです。…ウィル…!!」
自身の中で熱い物が広がったのを感じたS4は一時的に満足した。腰の動きを止めて、余韻に浸りながら再びウィルにキスをすると、中でウィルの質量が増したのを感じた。
「また…?」
その瞬間、ウィルが体を起こしてS4の体は反転させられた。そしてウィルが主導権を握り、攻めるように抽挿を繰り返し始める。
「…ダメ!…ウィル!…ダイアナが…!…や…ぁ…あ…いい!…そこ、奥…!」
S4は制止がきかなくなり、ウィルを受け入れ続けて自身も吐精した。ウィルも三度目の射精により、漸く勢いを無くしたようだった。
荒い息の中、結合を解いたウィルに異変が起こる。
「ウィル!?」
「…待て、ダイアナ!…僕は…。」
一瞬、苦し気な表情になったウィルの脳内で、何かが弾けた音がした。彼の目が真っ赤になり、赤い血の涙が頬を伝っていく。
「嘘…?…ウィル?…どうして、ダイアナ!?」
S4は体を起こして、逆にベッドに体を倒れたウィルにしがみついた。そして、もう彼に魂がない事を知る。
「う~ん、これって、途中までは制裁は免れてたよな?…それにしても、マイクロチップによる制裁を目の当たりにしたのは初めてだ。」
横で脂汗を掻いているマークルに、S4は鋭い視線を送った。
「あなたの所為なんでしょう?…ウィルに薬を与えて誘発させた。」
S4は全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。そして、ウィルの命を奪った監視者である人工知能に呼びかける。
「ダイアナ!どうして、この人は無事なんですか!?この人が仕掛けた事なんですよ!」
「違う!発案者は俺じゃない!」
慌てるマークルを無視してS4は吐露する。
「それに、この人は僕の中に四回射精しました。ダイアナの知らない処で!」
「おい、何を言うんだ!」
マークルは思わずS4の口を塞ぎに掛かる。
「ダイアナがやらないのなら、僕が彼を殺します!」
その瞬間、マークルの脳内でも何かが弾けたような音がした。ウィル同様に血の涙と鼻血を流したマークルは死体と化して、半身をベッドに沈めた。それをS4は床に乱暴に蹴り落とす。やがて怒りよりも悲しみが大きくS4を支配していった。
S4はウィルの両目を閉じさせると、濡れたタオルを持ってきて、彼の血に塗れた顔を綺麗にした。そして、乱れた着衣も整えてやる。
――僕もウィルを殺した共犯者の一人だ…。
S4は嗚咽し出し、それは次第に号泣へと変わった。
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