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第4話 一杯目
ああ、どんな蜜を集めようかな……!
妖精の集落の"緑の帳"には特別な温室あり、そこでは様々な花が年中咲いているのだ。
もちろん蜜がたっぷり採れるように品種改良済みの特別な花々だ。
俺はカルティノに渡されたミルクポットを胸に抱きしめて、思わず空中でくるくると舞った。
妖精の粉が辺りに煌き散り、花の上に落ちてくのが面白くなってきた俺は派手に粉を出した。
赤に、黄色、白、ピンク、水色、紫、オレンジ、明るい色合い、暗い色……、カルティノのはどういうのが良いかな!
そんな感じで俺が浮かれて花の上を飛び回ってきたら、アメールが食事に現れた。
「クラサ、何してるの? そのミルクポット、クラサのじゃないよね?」
「アメール! 聞いてくれよ!」
現れたアメールに俺はカルティノの事を話した。
少し呆れた顔もされたけど、話し終ると「良かったね」と言われた。
花蜜を集める事情が分かり、アメールは納得してくれたみたいだ。
「僕も手伝おうか?」
「んーん。俺だけでやる。アメール、さんきゅーな」
せっかくの手伝いだが俺は断り、蜜を集め始めるとアメールは花粉団子を頬張りながら別な会話をしてきた。
「そうそう、僕ね、帳の近くで人族の金色の髪の毛の剣士さんを見かけたんだ」
「人族?」
「うん。僕とおそろいの髪の毛で……触ってみたいな」
お? アメールの頬が赤い?
キラキラしている瞳が、いつもより煌きを増している?
翅の周りに飛び散る妖精の粉も。心なしか弾け具合も量も多い。
俺は普段と違うアメールに、「これは……もしや?」と感じた。
このまま気持ちが育てば、アメールはその金髪の剣士を……相手に選びそうだ。
だが、アメールがそれを金髪剣士サマにお願い出来るかが問題だな。
……必要なら、手助けをしよう……。
俺はそう心内で決めてアメールと会話を続けた。
そしていつの間にかミルクポットが蜜で満たされ、これ以上入れると運べないと気が付いた俺は採取を止めた。
「よし」と呟いた俺に、アメールが「湧き水に行った方が良いよ」と笑いながら勧めてきた。
その言葉に自身を見ると……花粉まみれだった。
集めている時、花粉を被ってしまったんだな~。
そこで俺達は集落内にある小さな湧き水の所に行き、服を脱いでそこに身を沈めた。
「クラサ、肩に花粉がついてる。……ぺろ……。ふふッ! わ、あまーい!」
「あー、急に舐めんなよぉー!」
水に浸りながらお互いに着いている花粉を舐めあう。
アメールの選んだ花粉、美味い~。
こうした花粉の舐め取りも前からしている事だ。
俺はこれはアメールとしかしないし、アメールも俺としかしない。
仲の良い妖精同士のスキンシップなのだ。
それにしても……コレをしている時の視線が最近多いなぁ~~。
視線のは"ヨコシマ"さが含んでいるのを感じながら、俺はアメールと舐めあう。
イタズラにアメールの脇腹の弱い所を舐める時、わざと回数を多くする。
するとアメールからは笑い声が溢れ、周りの"熱"が上がる。
そして仕返しにアメールに俺の背中の弱い所を舐め責められ、きゃっきゃとじゃれる。
ちなみにこういう行為は基本相手は一人だし、実は妖精同士でも珍しい。
うん。そのくらい、俺達は仲が良いんだぜ!
「―……どう?」
「うん、ちゃんと花粉は落ちたよ」
「そっか。さんきゅー。んじゃ、行ってくるな!」
「分かった」
身体を乾かして翅の具合も良好だと感じた俺は、アメールと分かれてカルティノの家に向かった。
向かう途中で金髪の剣士サマが見れないかなと思ったが、残念ながら見れなかった……。
そして……
「お、お邪魔しまーす」
ドキドキしながらカルティノの家に入る。
そして、入った一瞬……花の紋が"チリ"と熱を持った。
でも、ほんの少し熱を持っただけで、それは直ぐに収まった。
"認証"された……って事なのかな?
俺はそんな事を考えながらダイニングテーブル上に置かれた大瓶に近づき、黄金色の蜜を落とした。
―てろろ……てろろろろ……
おし! 今日の分の蜜入れ、完了したぞ!!
ふんわりとした優しい花の香りに思わず笑みが浮かんだ。
初日だし、量もちびっとだから底に薄く延ばされた状態だけど……。
蜜入れを完了させたし……カルティノ……居るかな?
俺はミルクポットをテーブルの上に置いて彼を求めて翅を動かした。
粉を"シャンシャン"と撒き散らしながら居間にに向かえば、黒い獣の絨毯の上で……
「…………」
「寝てる……?」
綺麗な寝顔。睫長い……。量も多い。モサモサ……。
近くまで飛んで、そっと獣の絨毯の上に降り立ち歩いて端正な顔に近づいた。
俺が近づいても、カルティノは瞳を開けない……。
疲れてるのかな? それとも、夜更かし? いや、朝が早かったのかも……。
……ねぇ、俺……ちゃんと来たよ……?
「―……も~~~…………何で寝てンだよぉ……」
ちょっと……会話とか出来るかな、とか期待していたのに……。
ちぇッ。ちぇッ。ちぇッ。
「…………」
―ちゅ。
俺は寝ているカルティノの髪に妖精の加護のキスをして、急いでミルクポットを掴んで彼の家を後にした。
加護の行動した後で、とてつもなく恥ずかしくなったんだ!
そして暫く飛んで、俺はカルティノの家の方向に身体を向けた。
直接的な視線の先には木々しかないが、俺の心は彼の家を見ている。
パタパタと妖精の粉が大量に飛び散る。
……俺、興奮しているんだな……。
「…………ぅ……ん」
俺はそれだけ口にして、帳へと再び飛んだ。
頬が……全身が熱い。
飛んでいる事で身体が冷えないだろうか?
しかも妖精の粉も大盤振る舞いだ。
「……カルティノ……」
―……明日は何か話せると……良いな!
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