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第5話
そわそわ落ち着かなかった。デスクに戻ってきた岩崎先生によると綾瀬は教育実習のことで来たらしい。
四年次にある教育実習……。そうか、母校であるここに綾瀬は来ることになるのか。
今日は内談で、実際はまだ一年半近く先のことだっていうのに妙に仕事が手につかなくなった。
元教え子と再会する確率はどれくらいなのだろう。母校へ顔を出す生徒もたまにいることはいるが、特に用事がない限りは滅多に来ない。
日常生活の中で偶然出くわすこともありそうでそうはない。
綾瀬が三年の時、俺は一年生を受け持っていたから学年の同窓会に呼ばれることもないし。
だから、俺は綾瀬と会うことはもうないのかもしれないと、卒業式の日思ったんだ。
教育学部に行くことは知っていたのに教育実習でここへ来ることになるかもなんてことも考えたことがなかった。
不意打ちの再会にどうしてこうも動揺してるのか。
週に一度……ただ俺のピアノを聴いていた元教え子。
それだけ、なのに。
放課後のーー毎週水曜日に。
「……水曜?」
呟いて、あっ、と卓上カレンダーを見た。
今日は水曜だった。卓上カレンダーのそばのパソコン。画面の片隅に表示された時間は五時になっている。
それを見て、ますます落ち着かなくなった。
2年前のあの頃、俺が音楽室に行っていたのは五時半くらいだった。
「……」
2年前とは違う。あの頃のことを綾瀬が忘れているとは思えないが、だからといって今日が水曜だから、と、わざわざ音楽室まで足を運ぶはずがない。きっと。
それなのにもしも綾瀬が音楽室を訪れたら、そう考えると自然身体が動いていた。
立ち上がった俺は自分の行動に戸惑いながらも隣の岩崎先生に声をかけていた。
「あの……音楽室の鍵、お借りしてもいいですか?」
岩崎先生は目を通していた書類から顔を上げ、訝しむそぶりもなく頷いた。
「どうぞ。いいですよ」
「……ありがとうございます」
来ないかもしれない。
いや、来ないだろう。
ーー来るかも、しれない。
音楽室の鍵を手にして俺は走り出しそうになるのを耐えて、音楽室へと向かった。
***
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