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第3話
今日は俺が壊してしまったキッチン用具を買いに来ている。
鈴は料理が壊滅的にできない。料理だけじゃない。家事全般壊滅的にできないと思っている。
心配症の母と秀が何でもやってくれる為、本人はあまり良くわかっていない。
秀は親の会社を継ぐために、社長補佐として仕事をしている。
秀の親はどちらもα。生まれながらのエリート。
鈴の家はβ同士。
父親は幼い頃に不慮の事故で亡くなっている。
働き頭を無くして困っていた母と幼い鈴に手を差し伸べてくれたのが高梨家、秀の母親である。母は高梨の会社で働かせてもらっている。
しかし鈴は別会社で営業を行っている。
何から何まで世話になるのは気が引けたからだ。
しかし、Ωということで休ませてもらうことが多く、余り会社の雰囲気に馴染めていない。格差が無いと言われていても内情はそうはいかない。
「疲れた俺のために料理をしてくれた健気な姿は凄く可愛かったよ?」
「もう、その話はもう終わりだろ。そういう約束だったじゃん。」
「ごめんごめん。」
かわいくてと秀はこぼす。
そんなとき甘くて少し香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「あ、クレープ!」
「鈴は甘いものほんと好きだよね。」
子供扱いされたようで鈴はじろりと秀を睨む。
「そんなに見ないで。可愛い顔が台無しだよ?まぁ、可愛いけど。」
秀は口癖のように”かわいい”と言う。嬉しくない…わけない。
クレープ屋めがけて歩くと力強い視線を感じた。
その視線が気になり鈴は顔をそちらへ向ける。
「…………ッ!!!」
身体中に電気が走る。その場から一歩も動けず、目線を外すこともできなかった。
「鈴?」
あぁ、運命とはなんと残酷なのだろう。
”彼”が居るのに。”彼”を見つけてしまった。
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